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2020年2月22日

Zephyr - まとめリンク

目次: Zephyr

導入、ブート周り

ボード、ドライバなど

SMP対応編

浮動小数点数命令など

その他

編集者:すずき(2024/08/05 11:55)

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2020年2月21日

ZephyrとRISC-Vとマルチプロセッサ

目次: Zephyr

昨日(2020年2月20日の日記参照)の続きです。

シリアルのみですが、ZephyrをQEMU RISC-V 32のvirtモードに移植しました。やっとZephyrが4 CPUで動くぞ、などと思っていましたが、全然ダメでした。2つ目以降のCPUは全く動きませんでした。

CPU 0は動作するが、他のCPUはloop_slave_coreから動かない
$ riscv64-zephyr-elf-gdb zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

(gdb) info threads
  Id   Target Id                    Frame
* 1    Thread 1.1 (CPU#0 [halted ]) 0x80000f70 in arch_cpu_idle ()
    at zephyr/soc/riscv/riscv-privilege/common/idle.c:21
  2    Thread 1.2 (CPU#1 [halted ]) loop_slave_core ()
    at zephyr/arch/riscv/core/reset.S:45
  3    Thread 1.3 (CPU#2 [halted ]) loop_slave_core ()
    at zephyr/arch/riscv/core/reset.S:45
  4    Thread 1.4 (CPU#3 [halted ]) loop_slave_core ()
    at zephyr/arch/riscv/core/reset.S:45

理由は簡単で、ZephyrのRISC-V版はSMPに対応していないからです。何を言ってるんだ?って?ええ、実は私も今この瞬間まで知りませんでした。ビックリしました。

リセット付近のソースコードをみると、

Zephyrのリセットベクタ

// zephyr/arch/riscv/core/reset.S

/*
 * Remainder of asm-land initialization code before we can jump into
 * the C domain
 */
SECTION_FUNC(TEXT, __initialize)
        /*
         * This will boot master core, just halt other cores.
         * Note: need to be updated for complete SMP support
         */
        csrr a0, mhartid
        beqz a0, boot_master_core

loop_slave_core:
        wfi
        j loop_slave_core

以上のように、はっきり書いてあります。SMPは一番大事な機能だと思っていただけに、未対応とは思わなんだ。

あー、今日の16550との戦いは一体何だったんだろう。しょんぼりですわ……。

メモ: 技術系の話はFacebookから転記しておくことにした。大幅に加筆した。

編集者:すずき(2023/09/24 12:06)

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2020年2月20日

Zephyrの16550シリアルドライバ

目次: Zephyr

先日はZepphyrをQEMUのSpikeモードに移植しましたが、SpikeモードだとCPU数は1以外選べないので、マルチプロセッサにできません。これは知りませんでした。最初に調べておけば良かったですね……。

マルチプロセッサでZephyrを動かしてみたかったので、QEMU RISC-V 32のvirtモード(qemu-system-riscv32のmachineをvirtにすること)に、前回同様にシリアルとメモリだけ動くようなSoCとボードの定義ファイルを作りました。

QEMU virtモードでは、シリアルのハードウェアとして16550をエミュレーションします。Zephyr側には既に16550用のドライバがあるので、わざわざ実装する必要もありません。とても楽です、素晴らしいです、とか何とか思いつつ動かしてみると、シリアルドライバがクラッシュします。んあー。

シリアルドライバが動かない理由

ZephyrをGDBで追うと16550のLCRレジスタを読もうとして、ロードアクセスフォルトが起きていました。アドレスのオフセットを見ると、0xcになっています。正しいオフセットは3のはずです。

シリアルドライバの実装を見ると、オフセットの計算が0x3 x 4 = 0xcとなっていて、おそらくレジスタサイズが4バイト単位だと思ってアクセスしているのでしょう。

世の中にはレジスタが4バイトの実装もあるかもしれませんが、残念なことにQEMUは由緒正しい(?)実装なので16550のレジスタは「1バイト」単位です。4バイト単位でアクセスすると、全く関係ない領域が破壊されます。困りました。

問題を解決するには、SoCの定義ファイルのどこか(soc.h辺りかな?)で、
#define DT_NS16550_REG_SHIFT 0
を定義し、レジスタのサイズが2^0つまり1バイト単位であることを16550シリアルドライバに教える必要があるみたいです。とても大事なことだと思いますが、全くドキュメントに書いていないように見えます。

そこそこコード見ないとわからないので、つらいです……。

シリアルドライバが動いた

無事シリアルが動作したので、QEMUを4 CPUのマルチプロセッサ設定で起動し、GDBで覗いてみます。

QEMU virtモードでマルチプロセッサと、その確認
$ qemu-system-riscv32 -nographic -machine virt -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/build/zephyr/zephyr.elf -cpu rv32 -smp cpus=4 -s -S

qemu-system-riscv32: warning: No -bios option specified. Not loading a firmware.
qemu-system-riscv32: warning: This default will change in a future QEMU release. Please use the -bios option to avoid breakages when this happens.
qemu-system-riscv32: warning: See QEMU's deprecation documentation for details.
*** Booting Zephyr OS build v2.2.0-rc1-123-gcaca3f60b012  ***
threadA: Hello World from QEMU RV32 virt board!
threadB: Hello World from QEMU RV32 virt board!
threadA: Hello World from QEMU RV32 virt board!
threadB: Hello World from QEMU RV32 virt board!
...


$ riscv64-zephyr-elf-gdb zephyr/build/zephyr/zephyr.elf 

...

Type "apropos word" to search for commands related to "word"...
Reading symbols from build/zephyr/zephyr.elf...

(gdb) target remote localhost:1234
Remote debugging using localhost:1234
0x00001000 in ?? ()

(gdb) info threads
  Id   Target Id                    Frame
* 1    Thread 1.1 (CPU#0 [running]) 0x00001000 in ?? ()
  2    Thread 1.2 (CPU#1 [running]) 0x00001000 in ?? ()
  3    Thread 1.3 (CPU#2 [running]) 0x00001000 in ?? ()
  4    Thread 1.4 (CPU#3 [running]) 0x00001000 in ?? ()

確かに4 CPUが存在していることがわかります。ZephyrのログはGDB側でcontinueすると出てきます。アプリケーションは、hello_worldではなくsamples/synchronizationを使っています。

メモ: 技術系の話はFacebookから転記しておくことにした。大幅に加筆した。

編集者:すずき(2023/09/24 12:06)

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2020年2月19日

Zephyrのブート処理 - ドライバの初期化情報とリンカーの妙技

目次: Zephyr

引き続き、ドライバの初期化に重要な役割を果たしている __device_PRE_KERNEL_1_start[] の謎を追っていきます。謎は「__device_PRE_KERNEL_1_start[] の実体はバイナリにあるもののソースコードには見当たらない」ことです。前回まででわかったことを復習すると、

  • __device_PRE_KERNEL_1_start[] の要素である初期化情報(__device_sys_init_init_static_pools3など)は、各ドライバの宣言SYS_INIT(), DEVICE_AND_API_INIT() などのAPIで作成される
  • __device_sys_init_init_static_pools3は .init_PRE_KERNEL_130セクションに配置される

配列の要素がどうやってできたかわかったので、残る謎は下記になります。

  • __device_PRE_KERNEL_1_start[] を構成する方法(__device_sys_init_init_static_pools3などを集めてくる方法)

これまた復習になりますが、__device_PRE_KERNEL_1_start[] はinitlevelセクションに配置されていました。

ドライバの初期化情報が配置されているセクション
$ riscv64-zephyr-elf-readelf -a zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

Section Headers:
  [Nr] Name              Type            Addr     Off    Size   ES Flg Lk Inf Al
  [ 0]                   NULL            00000000 000000 000000 00      0   0  0
  [ 1] vector            PROGBITS        80000000 000060 000010 00  AX  0   0  4
  [ 2] exceptions        PROGBITS        80000010 000070 000258 00  AX  0   0  4
  [ 3] text              PROGBITS        80000268 0002c8 002604 00  AX  0   0  4
  [ 4] sw_isr_table      PROGBITS        8000286c 0028cc 000080 00  WA  0   0  4
  [ 5] devconfig         PROGBITS        800028ec 00294c 000030 00   A  0   0  4
  [ 6] rodata            PROGBITS        8000291c 00297c 000305 00   A  0   0  4
  [ 7] datas             PROGBITS        80002c24 002c84 000014 00  WA  0   0  4
  [ 8] initlevel         PROGBITS        80002c38 002c98 000030 00  WA  0   0  4    ★ここに配置される★
  [ 9] _k_mutex_area     PROGBITS        80002c68 002cc8 000014 00  WA  0   0  4
  [10] bss               NOBITS          80002c80 002cdc 000140 00  WA  0   0  8
  [11] noinit            NOBITS          80002dc0 002cdc 000e00 00  WA  0   0 16
  ...

思い出していただきたいのは、配列の要素は .init_PRE_KERNEL_130セクションに置かれていて、initlevelセクションではなかったことです。つまり誰かがわざわざinitlevelセクションに置き直しています。

そんな芸当ができるのはリンカーしかいませんので、initlevelをキーワードにリンカースクリプトを探します。

initlevelセクションを作るリンカースクリプト
// zephyr/include/linker/common-ram.ld

...

        SECTION_DATA_PROLOGUE(initlevel,,)
        {
                DEVICE_INIT_SECTIONS()
        } GROUP_DATA_LINK_IN(RAMABLE_REGION, ROMABLE_REGION)


// zephyr/include/linker/linker-defs.h

/*
 * generate a symbol to mark the start of the device initialization objects for
 * the specified level, then link all of those objects (sorted by priority);
 * ensure the objects aren't discarded if there is no direct reference to them
 */

#define DEVICE_INIT_LEVEL(level)                                \
                __device_##level##_start = .;                   \
                KEEP(*(SORT(.init_##level[0-9])));              \
                KEEP(*(SORT(.init_##level[1-9][0-9]))); \

/*
 * link in device initialization objects for all devices that are automatically
 * initialized by the kernel; the objects are sorted in the order they will be
 * initialized (i.e. ordered by level, sorted by priority within a level)
 */

#define DEVICE_INIT_SECTIONS()                  \
                __device_init_start = .;        \
                DEVICE_INIT_LEVEL(PRE_KERNEL_1) \
                DEVICE_INIT_LEVEL(PRE_KERNEL_2) \
                DEVICE_INIT_LEVEL(POST_KERNEL)  \
                DEVICE_INIT_LEVEL(APPLICATION)  \
                __device_init_end = .;          \
                DEVICE_BUSY_BITFIELD()          \

DEVICE_AND_API_INITの宣言を思い出すと、ドライバなどで宣言される初期化セクションの名前は .init_(level)(prio) のような名前でした。DEVICE_INIT_LEVEL() はその法則性に従ってセクションを集めます。最終的に集められたセクションは、全てinitlevelセクションに配置されます。

例えばDEVICE_INIT_SECTIONS() の2行目にあるDEVICE_INIT_LEVEL(PRE_KERNEL_1) ですと、.init_PRE_KERNEL_1(数字) という名前のセクションを集めます。

というわけで、やっと謎が解けました。マクロやリンカースクリプトの見事な連携プレイですね。

prioの制限とエラーチェック

実装を見て気づいたと思いますが、DEVICE_AND_API_INIT() のprioに渡せる数字は2桁が上限です。DEVICE_INIT_LEVEL() は [0-9] もしくは [1-9][0-9] のパターンしかマッチしません。

試しに優先度を3桁にするとどうなるでしょう?mempool.cではCONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTSをprioに渡していたので、menuconfigでコンフィグを変えてみます。

3桁のprioにしてはいけない
$ ninja menuconfig

General Kernel Options  --->
  Initialization Priorities  --->
    (30) Kernel objects initialization priority

このパラメータを300に変更すると…?

riscv64-zephyr-elf/bin/ld: Undefined initialization levels used.
collect2: error: ld returned 1 exit status

リンク時にエラーで怒られました。これはどうやっているのでしょう?実はそんなに難しくありません。initlevelセクションを作るときとほぼ同じ仕組みです。

initlevelで拾えなかった .init_* 系セクションの検知

// zephyr/include/linker/common-ram.ld

        /* verify we don't have rogue .init_<something> initlevel sections */
        SECTION_DATA_PROLOGUE(initlevel_error,,)
        {
                DEVICE_INIT_UNDEFINED_SECTION()
        }
        ASSERT(SIZEOF(initlevel_error) == 0, "Undefined initialization levels used.")


// include/linker/linker-defs.h

/* define a section for undefined device initialization levels */
#define DEVICE_INIT_UNDEFINED_SECTION()         \
                KEEP(*(SORT(.init_[_A-Z0-9]*))) \

このinitlevel_errorセクションでは、initlevelセクションが拾い損ねた .init_* 系のセクションを全て集めます。もし1つでもセクションが拾えた場合、initlevel_errorセクションのサイズが0ではなくなるため、ASSERTに引っかかる仕組みになっています。リンカースクリプトでASSERTやSORTができるとは知らなかったですね……。

エラーチェックもきっちり作られていてZephyrはさすが良くできているなあと思います。

編集者:すずき(2023/09/24 12:03)

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2020年2月18日

Zephyrのブート処理 - ドライバの初期化情報の謎

目次: Zephyr

ドライバの初期化に重要な役割を果たしている __device_PRE_KERNEL_1_start[] の謎を追っていきます。謎について復習すると「実体はバイナリにあるもののソースコードには見当たらない」という点でした。

ソースコードでわからなければバイナリを見るのも一つの手です。シンボルの一覧を調べます。

ドライバの初期化情報(シンボル)
$ riscv64-zephyr-elf-nm -n zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

80002c38 D __device_PRE_KERNEL_1_start
80002c38 D __device_init_start
80002c38 d __device_sys_init_init_static_pools3
80002c44 d __device_uart_spike
80002c50 d __device_sys_init_uart_console_init0
80002c5c D __device_PRE_KERNEL_2_start
80002c5c d __device_sys_init_z_clock_driver_init0
80002c68 D __device_APPLICATION_start
80002c68 D __device_POST_KERNEL_start
80002c68 D __device_init_end

...

メモリイメージを図示すると下記のような感じで、前回のドライバの初期化処理が期待していると予想した並びになっています。違っていたら動きませんから、当たり前ですけども。

ドライバの初期化情報(メモリイメージ)
======== 80002c38 <-- __device_PRE_KERNEL_1_start, __device_init_start
__device_sys_init_init_static_pools3

======== 80002c44
__device_uart_spike

======== 80002c50
__device_sys_init_uart_console_init0

======== 80002c5c <-- __device_PRE_KERNEL_2_start
__device_sys_init_z_clock_driver_init0

======== 80002c68 <-- __device_POST_KERNEL_start, __device_APPLICATION_start, __device_init_end

POST_KERNELとAPPLICATIONは何も要素を持っておらず、同じアドレスになってしまっているものの、確かにレベル順(PRE_KERNEL_1, PRE_KERNEL_2, POST_KERNEL, APPLICATION)に並んでいます。

ドライバの初期化情報が配置されているセクション
$ riscv64-zephyr-elf-readelf -a zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

Section Headers:
  [Nr] Name              Type            Addr     Off    Size   ES Flg Lk Inf Al
  [ 0]                   NULL            00000000 000000 000000 00      0   0  0
  [ 1] vector            PROGBITS        80000000 000060 000010 00  AX  0   0  4
  [ 2] exceptions        PROGBITS        80000010 000070 000258 00  AX  0   0  4
  [ 3] text              PROGBITS        80000268 0002c8 002604 00  AX  0   0  4
  [ 4] sw_isr_table      PROGBITS        8000286c 0028cc 000080 00  WA  0   0  4
  [ 5] devconfig         PROGBITS        800028ec 00294c 000030 00   A  0   0  4
  [ 6] rodata            PROGBITS        8000291c 00297c 000305 00   A  0   0  4
  [ 7] datas             PROGBITS        80002c24 002c84 000014 00  WA  0   0  4
  [ 8] initlevel         PROGBITS        80002c38 002c98 000030 00  WA  0   0  4    ★ここに配置される★
  [ 9] _k_mutex_area     PROGBITS        80002c68 002cc8 000014 00  WA  0   0  4
  [10] bss               NOBITS          80002c80 002cdc 000140 00  WA  0   0  8
  [11] noinit            NOBITS          80002dc0 002cdc 000e00 00  WA  0   0 16
  ...

実体はあるのにソースコードに見当たらず、initlevelという変わった名前のセクションに置かれています。どうやら通常のグローバル変数や、static変数ではなさそうです。

一番最初に出てくる __device_sys_init_init_static_pools3がどうやって作られるのか、追いかけたらわかるかもしれません。部分一致でも良いので、それっぽい名前をgrepするとkernel/mempool.cで見つかります。

mempoolシステムドライバの宣言

// zephyr/kernel/mempool.c

SYS_INIT(init_static_pools, PRE_KERNEL_1, CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS);


// zephyr/include/init.h

/* A counter is used to avoid issues when two or more system devices
 * are declared in the same C file with the same init function.
 */
#define Z_SYS_NAME(init_fn) _CONCAT(_CONCAT(sys_init_, init_fn), __COUNTER__)

/**
 * @def SYS_INIT
 *
 * @brief Run an initialization function at boot at specified priority
 *
 * @details This macro lets you run a function at system boot.
 *
 * @param init_fn Pointer to the boot function to run
 *
 * @param level The initialization level, See DEVICE_AND_API_INIT for details.
 *
 * @param prio Priority within the selected initialization level. See
 * DEVICE_AND_API_INIT for details.
 */
#define SYS_INIT(init_fn, level, prio) \
        DEVICE_AND_API_INIT(Z_SYS_NAME(init_fn), "", init_fn, NULL, NULL, level,\
        prio, NULL)


// (参考1)
//  init_fn = init_static_pools
//  level   = PRE_KERNEL_1
//  prio    = CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS
//
//  Z_SYS_NAME(init_static_pools) = sys_init_init_static_pools3

マクロの嵐で面食らいますが、基本的に引数をそのまま渡していくだけなので1つずつ見ればさほど難しくありません。

SYS_INIT() はmempoolがシステムドライバであることを宣言するためのAPIです(公式ドキュメント Device Driver Model - Zephyr Project Documentation, System Driver節)。最終的にはDEVICE_AND_API_INIT() が呼ばれます。実はこいつもマクロです、あとで紹介します。

若干難しいのはZ_SYS_NAME() でしょうか?このマクロはsys_init_ と、引数init_fnとカウンタ(__COUNTER__)を連結したトークンを返します。

私の環境でビルドしたときはinit_fnはinit_static_poolsで、__COUNTER__ は3でしたから、sys_init_ とinit_static_poolsと3が連結され、sys_init_init_static_pools3になります。このトークンがDEVICE_AND_API_INIT() の第一引数に渡されます。

シンボル名がsys_init_init_... とinitがダブっていて、変な名前だな?と思った方もいるでしょう、このZ_SYS_NAME() マクロが原因でした。ま、それはさておいて、続きを追いかけます。

ドライバの宣言マクロ

// zephyr/include/device.h

/**
 * @def DEVICE_AND_API_INIT
 *
 * @brief Create device object and set it up for boot time initialization,
 * with the option to set driver_api.
 *
 * @copydetails DEVICE_INIT
 * @param api Provides an initial pointer to the API function struct
 * used by the driver. Can be NULL.
 * @details The driver api is also set here, eliminating the need to do that
 * during initialization.
 */
#ifndef CONFIG_DEVICE_POWER_MANAGEMENT
#define DEVICE_AND_API_INIT(dev_name, drv_name, init_fn, data, cfg_info,  \
                            level, prio, api)                             \
        static const struct device_config _CONCAT(__config_, dev_name) __used \
        __attribute__((__section__(".devconfig.init"))) = {               \
                .name = drv_name, .init = (init_fn),                      \
                .config_info = (cfg_info)                                 \
        };                                                                \
        static Z_DECL_ALIGN(struct device) _CONCAT(__device_, dev_name) __used \
        __attribute__((__section__(".init_" #level STRINGIFY(prio)))) = { \
                .config = &_CONCAT(__config_, dev_name),                  \
                .driver_api = api,                                        \
                .driver_data = data                                       \
        }
#else
/*
 * Use the default device_pm_control for devices that do not call the
 * DEVICE_DEFINE macro so that caller of hook functions
 * need not check device_pm_control != NULL.
 */
#define DEVICE_AND_API_INIT(dev_name, drv_name, init_fn, data, cfg_info, \
                            level, prio, api)                            \
        DEVICE_DEFINE(dev_name, drv_name, init_fn,                       \
                      device_pm_control_nop, data, cfg_info, level,      \
                      prio, api)
#endif


//DEVICE_AND_API_INITを展開すると最終的に下記のようになる
//
//変数名
//  _CONCAT(__config_, dev_name) = __config_sys_init_init_static_pools3
//構造体メンバー
//  drv_name = ""
//  init_fn = init_static_pools
//  cfg_info = NULL
//なので、

static const struct device_config __config_sys_init_init_static_pools3 __used
__attribute__((__section__(".devconfig.init"))) = {
        .name = "",
        .init = init_static_pools,
        .config_info = NULL
};


//変数名
//  _CONCAT(__device_, dev_name) = __device_sys_init_init_static_pools3
//セクション名
//  level = PRE_KERNEL_1
//  prio = 30
//  ".init_" #level STRINGIFY(prio) = ".init_PRE_KERNEL_130"
//構造体メンバー
//  _CONCAT(__config_, dev_name) = __config_sys_init_init_static_pools3
//  api  = NULL
//  data = NULL
//なので、

static Z_DECL_ALIGN(struct device) __device_sys_init_init_static_pools3 __used
__attribute__((__section__(".init_PRE_KERNEL_130"))) = {
        .config = &__config_sys_init_init_static_pools3,
        .driver_api = NULL,
        .driver_data = NULL
}


//(参考2: DEVICE_AND_API_INITの引数と値)
//  dev_name = Z_SYS_NAME(init_fn) = Z_SYS_NAME(init_static_pools) = sys_init_init_static_pools3
//  drv_name = ""
//  init_fn  = init_fn = init_static_pools
//  data     = NULL
//  cfg_info = NULL
//  level    = level = PRE_KERNEL_1
//  prio     = prio = CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS = 30
//  api      = NULL

//(参考1: SYS_INITの引数と値)
//  init_fn = init_static_pools
//  level   = PRE_KERNEL_1
//  prio    = CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS = 30

ちょっと長いですがDEVICE_AND_API_INIT() を見ていくと、最後は上記のように __config_sys_init_init_static_pools3と __device_sys_init_init_static_pools3の2つの構造体の宣言に展開されることがわかります。

後者の __device_sys_init_init_static_pools3は、先程nmでzephyr.elfを見たときに出てきた、アイツです。それに加えて __device_sys_init_init_static_pools3は、.init_PRE_KERNEL_130という変な名前のセクションに配置されることもわかると思います。

理解が合っているか不安なときは、答え合わせとしてバイナリをチェックです。ビルド時に生成されるオブジェクトbuild/zephyr/kernel/CMakeFiles/kernel.dir/mempool.c.objのシンボルテーブルをobjdumpで確認するとわかりやすいです。

mempool.c.objのシンボルテーブル
$ riscv64-zephyr-elf-objdump -t zephyr/build/zephyr/kernel/CMakeFiles/kernel.dir/mempool.c.obj

...

00000000 l     O .bss.lock      00000000 lock
00000000 l    d  .devconfig.init        00000000 .devconfig.init
00000000 l     O .devconfig.init        0000000c __config_sys_init_init_static_pools3
00000000 l    d  .init_PRE_KERNEL_130   00000000 .init_PRE_KERNEL_130
00000000 l     O .init_PRE_KERNEL_130   0000000c __device_sys_init_init_static_pools3

...

セクション .init_PRE_KERNEL_130に __device_sys_init_init_static_pools3が配置されていることが確認できました。じゃあ、どうやって __device_PRE_KERNEL_1_startに含まれるようになるんでしょう?

続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/09/24 12:03)

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2020年2月17日

Zephyrのブート処理 - ドライバの初期化まで

目次: Zephyr

前回はリセット直後からC言語の関数と出会うところまでを紹介しました。今回はドライバの初期化までを紹介します。

最初のC言語の関数 _PrepC

// zephyr/arch/riscv/core/prep_c.c

void _PrepC(void)
{
        z_bss_zero();
#ifdef CONFIG_XIP
        z_data_copy();
#endif
#if defined(CONFIG_RISCV_SOC_INTERRUPT_INIT)
        soc_interrupt_init();
#endif
        z_cstart();
        CODE_UNREACHABLE;
}

ブート後に最初に出会うC言語の関数 _PrepC() ですが、実はまだグローバル変数の初期化が終わっていませんので、この関数で初期化しています。z_bss_zero() は、ゼロ初期化される変数の領域(BSS)を0で初期化します。z_data_copy() は、変数領域をROMからRAMにコピーします。

XIP(Execution In Place)が有効な場合、コード領域はFlash ROMなどに配置され、CPUはROMから直接コードを読み出して実行します。コード領域はそれで良いですが、変数の初期値もROMにおかれていて、そのままでは変数に書き込みできません。そのためROMからRAMにコピーする必要があります。

最後のz_start() まで来ると、やっと普通のC言語の世界です。

Zephyrの初期化処理

// zephyr/kernel/init.c

FUNC_NORETURN void z_cstart(void)
{

        ...

        /* perform basic hardware initialization */
        z_sys_device_do_config_level(_SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_1);    //★level = 0
        z_sys_device_do_config_level(_SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_2);


// zephyr/include/init.h

#define _SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_1    0
#define _SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_2    1
#define _SYS_INIT_LEVEL_POST_KERNEL     2
#define _SYS_INIT_LEVEL_APPLICATION     3

初期化関数z_cstart() は、色々ごちゃごちゃやっているのですが、真ん中あたりでドライバの初期化が行われます。レベルをPRE_KERNEL_1 (level 0), PRE_KERNEL_2 (level 1) の順に指定して、z_sys_device_do_config_level() という関数を呼びます。ちなみにPOST_KERNEL (level 2), APPLICATION (level 3) はもっと後で、カーネルの初期化が終わった後に使われます。

初期化される対象はデバイスドライバ以外(後述の、メモリ割り当てシステムドライバなど)もありますけど、仕組みは同じみたいです。

ドライバの初期化処理

// zephyr/kernel/device.c

extern struct device __device_init_start[];
extern struct device __device_PRE_KERNEL_1_start[];
extern struct device __device_PRE_KERNEL_2_start[];
extern struct device __device_POST_KERNEL_start[];
extern struct device __device_APPLICATION_start[];
extern struct device __device_init_end[];

...

void z_sys_device_do_config_level(s32_t level)
{
        struct device *info;
        static struct device *config_levels[] = {
                __device_PRE_KERNEL_1_start,
                __device_PRE_KERNEL_2_start,
                __device_POST_KERNEL_start,
                __device_APPLICATION_start,
                /* End marker */
                __device_init_end,
        };

        for (info = config_levels[level]; info < config_levels[level+1];
                                                                info++) {
                int retval;
                const struct device_config *device_conf = info->config;
                ...

実装は上記のようになっています。level 0の場合は __device_PRE_KERNEL_1_start[] という配列を先頭から処理します。他のレベルも同様ですね。

ドライバの初期化情報
======== <-- config_levels[0]
__device_PRE_KERNEL_1_start[0]
__device_PRE_KERNEL_1_start[1]
...
__device_PRE_KERNEL_1_start[n]
======== <-- config_levels[1]
__device_PRE_KERNEL_2_start[0]
__device_PRE_KERNEL_2_start[1]
...
__device_PRE_KERNEL_2_start[n]
======== <-- config_levels[2]
__device_POST_KERNEL_start[0]
__device_POST_KERNEL_start[1]
...
__device_POST_KERNEL_start[n]
======== <-- config_levels[3]
__device_APPLICATION_start[0]
__device_APPLICATION_start[1]
...
__device_APPLICATION_start[n]
======== <-- __device_init_end

このようにメモリ上にstruct deviceがレベル順に並んでいることを期待しているようです。しかし配列の実体はCのソースコード上には存在しないように見えます。これは一体何者なんでしょう?

続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/09/24 12:02)

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