【速報】テスラ「バッテリー・デー」のポイントを解説 - EVsmartブログ を読んで。
約1か月前のニュースですが「電池は自分で作るんで!さよなら!!」と鮮やかにポイ捨てされたパナソニックさん。
一緒に5000億の工場(ギガファクトリー1)を作り始めた(※1)かと思いきや、投資回収どころか、工場完成してないのに縁切り宣言を始める辺り、テスラは気が短すぎます。この決断スピードには、パナソニックはとても付いていけないでしょう。
今だから思いますが、ギガファクトリー1はうまく(?)できていて、セル:パナソニック、アセンブリ:テスラの分担となっていますので、テスラは離脱してもほぼ損害がありません。テスラは最初からバッテリー自社生産を狙っていたのでは?とすら感じます。
いずれにせよ困るのはパナソニックで、テスラに離脱されると、大量の2170セル生産能力が余ります(※2)。18650に転換してもテスラ並みの需要を持つ顧客はいるでしょうか?
(※1)ギガファクトリー1は合弁で建てているので、パナソニックとテスラの負担割合はわかりません。さすがにゼロってことはないでしょう。
(※2)ギガファクトリー1は、テスラ専用の2170(直径21mm x高さ70mm)という微妙にでかいバッテリーセルを作っており、標準的な18650(18mm x 65.0mm)セル使う機器には使いまわし効かないように見えます。
5年位前にギガファクトリー1のニュースを見たときは「テスラと組むなんて、パナソニックも変わったなあ〜」なんて感動しました。パナソニックの社運を賭けた投資、なんてニュースも目にしたものです。
ぼーっとしているとテスラに置いて行かれ、数年後にはギガファクトリー1が、パナソニックの大型失敗案件、砺波CCD(1000億)、尼崎プラズマ(4000億?)、三洋合併(6000億円?)にランクインしてしまいそうです。
完全にテスラに寄りかかって、何も考えてないパナソニックが悪い、ダシにされて当然だろ?っていわれたら、何も言い返せないですが、さすがに合弁作ってハイさようならは、ご無体すぎて可哀想ですね……。
メモ: 技術系の話はFacebookから転記しておくことにした。加筆修正。
目次: Zephyr
前回はリグレッションテストの実行環境を整備しました。今回はリグレッションテストで見つけたバグを修正します。
テストtests/kernel/smp/kernel.multiprocessing.smpが失敗しています。
ASSERTION FAIL [!arch_is_in_isr()] @ ZEPHYR_BASE/kernel/sched.c:1209
テスト対象のarch_is_in_isr() の実装を見ると、シングルコアを前提とした実装になっています。
// zephyr/arch/riscv/include/kernel_arch_func.h
static inline bool arch_is_in_isr(void)
{
return _kernel.cpus[0].nested != 0U; //★シングルコア前提になっている★
}
// (修正後)
static inline bool arch_is_in_isr(void)
{
return arch_curr_cpu()->nested != 0U;
}
直し方はarch_curr_cpu() に置き換えるだけで良さそうです。
他のテストではsched_ipi_has_calledが0のままらしく、怒られています。
Assertion failed at ZEPHYR_BASE/tests/kernel/smp/src/main.c:602: test_smp_ipi: (sched_ipi_has_called != 0 is false)
テスト対象のsched_ipi_has_calledをカウントアップする処理は下記のとおりです。
// zephyr/kernel/sched.c
#ifdef CONFIG_SMP
void z_sched_ipi(void)
{
/* NOTE: When adding code to this, make sure this is called
* at appropriate location when !CONFIG_SCHED_IPI_SUPPORTED.
*/
#ifdef CONFIG_TRACE_SCHED_IPI
z_trace_sched_ipi();
#endif
}
// zephyr/tests/kernel/smp/src/main.c
#ifdef CONFIG_TRACE_SCHED_IPI
/* global variable for testing send IPI */
static volatile int sched_ipi_has_called;
void z_trace_sched_ipi(void)
{
sched_ipi_has_called++;
}
コンフィグCONFIG_TRACE_SCHED_IPIが有効になっているときは、カーネルがz_trace_sched_ipi() を呼び出します。テストではCONFIG_TRACE_SCHED_IPIを有効にするとともに、この関数を定義して、カーネルから正常にコールバックされるかどうかを見ているようです。
以前(2020年10月16日の日記参照)、IPIのハンドラを実装した際にコメントアウトしてくれ、と言っていた部分がありました。あの部分が役に立ちます。
// zephyr/drivers/timer/riscv_machine_timer.c
#ifdef CONFIG_SMP
void z_riscv_sched_ipi(void);
static void soft_isr(const void *arg)
{
volatile uint32_t *r = (uint32_t *)RISCV_MSIP;
ARG_UNUSED(arg);
*r = 0;
z_riscv_sched_ipi(); //★この行を足す★
}
#endif
// zephyr/arch/riscv/core/cpu_smp.c
#ifdef CONFIG_SMP
void z_riscv_sched_ipi(void)
{
z_sched_ipi();
}
#endif
本当は直接z_sched_ipi() を呼べば良いんですが、drivers以下のソースコードからはz_sched_ipi() を呼ばない方が良さそう(関数プロトタイプが見えない)だったので、arch/riscvを経由させる変な実装になっています。どう実装するのが正しいんでしょうねえ?
これでSMP系のテストを通過しました。良かった良かった。
目次: Zephyr
前回はSMPに対応しました。今回はリグレッションテストを行う準備をします。
Zephyrにはsanitycheckというツールが用意されています。テストレポートやテスト用バイナリが生成されるので、Zephyrのトップディレクトリではなく、空ディレクトリを作ってから実行すると良いです。オプション -pでテストしたいプラットフォームを指定します。
$ mkdir __tmp $ cd __tmp $ sanitycheck -p qemu_riscv32 INFO - JOBS: 16 INFO - Building initial testcase list... INFO - 928 test configurations selected, 752 configurations discarded due to filters. INFO - Adding tasks to the queue... ...
いちいちsanitycheckを全部実行するとかなり時間が掛かります。テストにはタグが付いていて、sanitycheckはオプション -tで特定のタグが付いたテストのみを実行できます。便利ですね。
タグはどこから来ているかというとtestsディレクトリの下に存在するtestcase.yamlというファイルに書いてあります。
// zephyr/kernel/smp/testcase.yaml
tests:
kernel.multiprocessing.smp:
tags: smp //★これがタグ★
filter: (CONFIG_MP_NUM_CPUS > 1) //★フィルタ、この条件が真でないとテストがスキップされる★
SMP系のテストにはsmpというタグが付いているので、-t smpと指定します。
$ sanitycheck -p qemu_riscv32 -t smp INFO - JOBS: 16 INFO - Building initial testcase list... INFO - 928 test configurations selected, 925 configurations discarded due to filters. INFO - Adding tasks to the queue... INFO - Total complete: 3/ 3 100% skipped: 3, failed: 0 INFO - 0 of 0 tests passed (0.00%), 0 failed, 928 skipped with 0 warnings in 1.95 seconds INFO - In total 0 test cases were executed on 1 out of total 292 platforms (0.34%) INFO - 0 tests executed on platforms, 0 tests were only built.
残念ながらテストは全てスキップされてしまいます。原因はqemu_riscv32ボードはSMPに対応していない(CONFIG_SMPをselectしない)ため、testcase.yamlに書かれたフィルタに引っかかって除外されるからです。
先日作成したqemu_rv32_virtボードならばCONFIG_SMPが有効なので、テストが実行されるはずです。
$ sanitycheck -p qemu_rv32_virt -t smp INFO - JOBS: 16 INFO - Building initial testcase list... INFO - 0 test configurations selected, 0 configurations discarded due to filters. INFO - Adding tasks to the queue... INFO - 0 of 0 tests passed (0.00%), 0 failed, 0 skipped with 0 warnings in 0.65 seconds INFO - In total 0 test cases were executed on 0 out of total 291 platforms (0.00%) INFO - 0 tests executed on platforms, 0 tests were only built.
ダメですね。こういうときは既存のボードと見比べて差分を見るとわかりやすいです。どうやらboard.cmake, qemu_rv32_virt.yamlを作らないと、ボードが認識されないようです。
# zephyr/boards/riscv/qemu_rv32_virt/board.cmake # SPDX-License-Identifier: Apache-2.0 set(EMU_PLATFORM qemu) set(QEMU_binary_suffix riscv32)ARCH riscv32) ARCH -nographic -machine virt -cpu rv32 -bios none ) board_set_debugger_ifnset(qemu) // zephyr/boards/riscv/qemu_rv32_virt/qemu_rv32_virt.yaml identifier: qemu_rv32_virt name: QEMU RISCV32 virt target type: qemu simulation: qemu arch: riscv32 ram: 256 toolchain: - zephyr - xtools testing: default: true ignore_tags: - net - bluetooth
もう一度実行します。
$ sanitycheck -p qemu_rv32_virt -t smp INFO - JOBS: 16 INFO - Building initial testcase list... INFO - 928 test configurations selected, 925 configurations discarded due to filters. INFO - Adding tasks to the queue... ERROR - qemu_rv32_virt tests/kernel/smp/kernel.multiprocessing.smp FAILED: Timeout ERROR - see: zephyr/__tmp/sanity-out/qemu_rv32_virt/tests/kernel/smp/kernel.multiprocessing.smp/handler.log INFO - Total complete: 1/ 3 33% skipped: 0, failed: 1 ERROR - qemu_rv32_virt tests/kernel/spinlock/kernel.multiprocessing.spinlock FAILED: Failed ERROR - see: zephyr/__tmp/sanity-out/qemu_rv32_virt/tests/kernel/spinlock/kernel.multiprocessing.spinlock/handler.log INFO - Total complete: 3/ 3 100% skipped: 0, failed: 2 INFO - 1 of 3 tests passed (33.33%), 2 failed, 925 skipped with 0 warnings in 72.61 seconds INFO - In total 13 test cases were executed on 1 out of total 292 platforms (0.34%) INFO - 2 tests executed on platforms, 1 tests were only built.
いくつかのテストがFAILEDしている、すなわちデグレードしていることを示していますが、ひとまずテストは実行できました。次回はデグレードした箇所を直します。
目次: Zephyr
前回はマルチコアのブート処理を実装しました。今回はIPI (Inter-Processor Interrupt、プロセッサ間割り込み) を実装します。長きに渡ったSMP対応もようやく終盤です。
IPIとはInter-Processor Interrupt、プロセッサ間割り込みのことで、SMPの核となる機能です。プロセッサ間で何かイベントを伝えたい(今回の場合はスレッドスケジューラを動かしてほしい)ときにIPIを発生させます。
RISC-V Privilegeの場合、IPIを発生させるにはCLINTを使います。CLINTのmsipレジスタの最下位ビットは、それぞれのHARTのmipレジスタのMSIPビットに繋がっています。平たく言えばmsipレジスタに1を書き込むと他のHARTにソフトウェア割り込みが発生する仕組みです。
CLINTはタイマードライバの実装のときに出てきました(2020年10月14日の日記参照)。IPIの実装は、他アーキテクチャだとzephyr/arch/*/coreの下に実装していることが多いですが、RISC-Vの場合はタイマードライバzephyr/drivers/timer/riscv_machine_timer.cに実装すると早いです。このやり方で合っているのかはちょっとわかりません。割り込みコントローラとして新たに実装した方が筋が良さそうではあります。
IPIの実装を発生させる側と受け取る側に分けて説明します。
// zephyr/drivers/timer/riscv_machine_timer.c
#define RISCV_MSIP_OTHER(id) (RISCV_MSIP_BASE + (uintptr_t)(id) * 4)
#define RISCV_MSIP RISCV_MSIP_OTHER(z_riscv_hart_id())
...
#ifdef CONFIG_SMP
void arch_sched_ipi(void)
{
uint32_t id = z_riscv_hart_id();
for (int i = 0; i < CONFIG_MP_NUM_CPUS; i++) {
volatile uint32_t *r = (uint32_t *)RISCV_MSIP_OTHER(i);
if (i == id)
continue; //★自分自身には割り込みを発生させない★
*r = 1;
}
}
...
発生させる側の実装はarch_sched_ipi() 関数を定義して、自分以外のHARTに割り込みを発生させます。シンプルで良いですね。
IPIを発生させる処理も確認します。何箇所かありますが、短めのものを例として挙げます。
// zephyr/kernel/sched.c
static void ready_thread(struct k_thread *thread)
{
if (z_is_thread_ready(thread)) {
sys_trace_thread_ready(thread);
_priq_run_add(&_kernel.ready_q.runq, thread);
z_mark_thread_as_queued(thread);
update_cache(0);
#if defined(CONFIG_SMP) && defined(CONFIG_SCHED_IPI_SUPPORTED)
arch_sched_ipi(); //★ここで呼ばれている★
#endif
}
}
コンフィグCONFIG_SMPは既に有効にしていますが、それ以外にもCONFIG_SCHED_IPI_SUPPORTEDを有効にする必要があるようです。
// zephyr/drivers/timer/Kconfig
config RISCV_MACHINE_TIMER
bool "RISCV Machine Timer"
depends on SOC_FAMILY_RISCV_PRIVILEGE
select TICKLESS_CAPABLE
select SCHED_IPI_SUPPORTED #★この行を足す★
help
This module implements a kernel device driver for the generic RISCV machine
timer driver. It provides the standard "system clock driver" interfaces.
今回IPIの機構を実装したのはタイマードライバですので、タイマーのKconfigに追加しています。
IPIを受け取る側の実装です。マスターコアとスレーブコアで呼ばれる関数が違う点は少しややこしいですが、基本的にやることは一緒です。前回(2020年10月10日の日記参照)、空関数で実装したsmp_timer_init() を真面目に実装するときが来ました。
#ifdef CONFIG_SMP
void z_riscv_sched_ipi(void);
static void soft_isr(const void *arg)
{
volatile uint32_t *r = (uint32_t *)RISCV_MSIP;
ARG_UNUSED(arg);
*r = 0; //★ソフトウェア割り込みをクリア★
z_riscv_sched_ipi(); //★IPIテスト用の関数(後日に説明予定)今はリンクエラーになるはずなので、コメントアウトしてOK★
}
#endif
//★マスターコア用のタイマー初期化関数★
int z_clock_driver_init(const struct device *device)
{
ARG_UNUSED(device);
IRQ_CONNECT(RISCV_MACHINE_TIMER_IRQ, 0, timer_isr, NULL, 0);
last_count = mtime();
set_mtimecmp(last_count + CYC_PER_TICK);
irq_enable(RISCV_MACHINE_TIMER_IRQ);
#ifdef CONFIG_SMP
IRQ_CONNECT(RISCV_MACHINE_SOFT_IRQ, 0, soft_isr, NULL, 0); //★ソフトウェア割り込みの割り込みハンドラを設定する★
irq_enable(RISCV_MACHINE_SOFT_IRQ); //★ソフトウェア割り込み有効★
#endif
return 0;
}
...
//★スレーブコア用のタイマー初期化関数★
//★マスターコアが割り込みハンドラの設定をするので、割り込みを有効にするだけに留める★
void smp_timer_init(void)
{
last_count = mtime();
set_mtimecmp(last_count + CYC_PER_TICK);
irq_enable(RISCV_MACHINE_TIMER_IRQ);
irq_enable(RISCV_MACHINE_SOFT_IRQ);
}
#endif /* CONFIG_SMP */
割り込みを有効にして、ソフトウェア割り込みハンドラでCLINTのmsipレジスタをクリアします。msipのクリアを忘れると割り込みハンドラが終わった直後、またすぐソフトウェア割り込みが入って、ハンドラが呼ばれて、割り込みが入って、ハンドラが呼ばれて、、、を繰り返してしまい処理が先に進まなくなって、ハングします。
前回作成した環境を流用して動作確認します。
$ ninja run [0/1] To exit from QEMU enter: 'CTRL+a, x'[QEMU] CPU: riscv32 *** Booting Zephyr OS build zephyr-v2.4.0-546-g720718653f92 *** 1: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 2: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! 0: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 2: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! 1: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 3: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! 1: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! ...
やった!動きました。スレッドがHART 0だけでなく、別のHARTでも実行されている様子がわかります。
リグレッションテストについては、また次回。
目次: Zephyr
CONFIG_SMP有効、1コア、HART ID != 0の動作確認をしました。以前書いたとおり、SMP対応は下記の手順で進めていますので、再掲します。
現在3番目の項目が終わったところです。いよいよ最後です。SMP対応の本丸である、マルチコアブート、IPIの対応を進めます。
前回(2020年10月10日の日記参照)、空関数で実装したarch_start_cpu() を真面目に実装するときが来ました。HART 0をマスターコア、それ以外をスレーブコアとします。マスターコアはarch_start_cpu() を呼びスレーブコアを1つずつ起床します。
// zephyr/kernel/smp.c
void z_smp_init(void)
{
(void)atomic_clear(&start_flag);
#if defined(CONFIG_SMP) && (CONFIG_MP_NUM_CPUS > 1)
for (int i = 1; i < CONFIG_MP_NUM_CPUS; i++) {
arch_start_cpu(i, z_interrupt_stacks[i], CONFIG_ISR_STACK_SIZE,
smp_init_top, &start_flag); //★スレーブコアの数だけarch_start_cpu() を呼ぶ★
}
#endif
(void)atomic_set(&start_flag, 1);
}
// zephyr/arch/riscv/core/cpu_smp.c
static volatile struct {
arch_cpustart_t fn;
void *arg;
} riscv_cpu_cfg[CONFIG_MP_NUM_CPUS];
volatile uintptr_t riscv_init_flag;
volatile void *riscv_init_sp;
//★マスターコアが実行★
void arch_start_cpu(int cpu_num, k_thread_stack_t *stack, int sz,
arch_cpustart_t fn, void *arg)
{
riscv_cpu_cfg[cpu_num].fn = fn;
riscv_cpu_cfg[cpu_num].arg = arg;
/* Signal to slave core with initial sp. */
riscv_init_sp = Z_THREAD_STACK_BUFFER(stack) + sz; //★スタックポインタの初期値★
riscv_init_flag = cpu_num; //★スレーブコアを起床★
/* Wait for slave core */
while (riscv_init_flag == cpu_num) { //★スレーブコアが起床するまでビジーウェイト★
;
}
}
引数の意味はCPU番号cpu_num、スタックの先頭アドレスstack、スタックのサイズsz、スレーブコアが実行する関数のポインタfn、関数の引数argです。fnとargは後でスレーブコアが使うので配列riscv_cpu_cfg[] に保存します。
スタックポインタとCPU番号はスレーブコアのブート部分で参照するので、グローバル変数に保存します。riscv_init_flag, riscv_init_spは配列にしなくても上書きされる心配はありません。マスターコアはスレーブコアを一度に1コアずつ起こすように実装するので、複数のスレーブコアが同時に同じスタックを使って異常動作する事態は発生し得ないからです。スレーブコア側の実装も見ていただければわかるはず、です。
リセット後、スレーブコアは一度に全コアが起動します。ブートコードの途中で、マスターコアから設定されるフラグを待つように実装します。下記コードでいえばboot_slave_coreのところです
SECTION_FUNC(TEXT, __initialize)
/*
* This will boot master core, just halt other cores.
* Note: need to be updated for complete SMP support
*/
csrr a0, mhartid
beqz a0, boot_master_core //★HART 0はマスターコア★
li a1, CONFIG_MP_NUM_CPUS //★CONFIG_MP_NUM_CPUSより小さいHART IDならスレーブコア★
blt a0, a1, boot_slave_core
loop_slave_core: //★CONFIG_MP_NUM_CPUS以上のHART IDがあったら、wfiでスリープ状態にさせる★
wfi
j loop_slave_core
boot_slave_core:
/* Wait for signal from master core */
la t0, riscv_init_flag
RV_OP_LOADREG t1, (t0)
bne a0, t1, boot_slave_core //★riscv_init_flagに自分のHART IDが設定されるまで待つ★
/* Setup stack */
la t1, riscv_init_sp
RV_OP_LOADREG sp, (t1) //★スタックポインタ初期化★
/* Notify to master core */
RV_OP_STOREREG x0, (t0) //★マスターコアにブート完了を知らせる★
j z_riscv_slave_start
...
// zephyr/arch/riscv/core/cpu_smp.c
//★スレーブコアが実行★
void z_riscv_slave_start(int cpu_num)
{
#if defined(CONFIG_RISCV_SOC_INTERRUPT_INIT)
soc_interrupt_init();
#endif
riscv_cpu_cfg[cpu_num].fn(riscv_cpu_cfg[cpu_num].arg); //★arch_start_cpu() で指定された関数と引数★
}
スレーブコアは全てが同時にriscv_init_flagをチェックしますが、riscv_init_flag == 自身のHART IDと一致しない限り永久に待つため、flagチェック以降の処理に進むことはありません。この機構により同じスタックを2つ以上のスレーブコアが同時に使ってしまうことを避けています。
以上で、マルチコアが動き始めました。続きは次回。
目次: Zephyr
前回はHART 0以外で動かす際に、動作確認が必要なので準備を行いました。今回はHART 0以外で動かします。
一番簡単なやり方は、ブート時の判定条件を変えることだと思います。通常はHART IDが0だったら起動しますが、0じゃないHARTのときに起動するように変更します。この変更は最終的には不要なので、あとで元に戻すのを忘れないようにしてください。
// zephyr/arch/riscv/core/reset.S
...
SECTION_FUNC(TEXT, __initialize)
/*
* This will boot master core, just halt other cores.
* Note: need to be updated for complete SMP support
*/
csrr a0, mhartid
addi a0, a0, -3 //★HART ID - 3 = 0なら実行する、つまりHART ID 3で実行する★
beqz a0, boot_master_core
...
ZephyrのCPUコア数はmenuconfigから変更可能です。なぜかは知りませんが、最大4コアらしいです。
$ ninja menuconfig General Kernel Options ---> SMP Options ---> (4) Number of CPUs/cores
実行してみます。QEMUの -smp cpus=1オプションをcpus=4に変更して4コアで実行します。
$ qemu-system-riscv32 -nographic -machine virt -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/zephyr.elf -cpu rv32 -smp cpus=4 -bios none ** Booting Zephyr OS build zephyr-v2.4.0-546-g720718653f92 *** 3: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board!
HART IDは変わりました。しかしスレッドAからスレッドBに切り替わらず、ハングアップしてしまいます。原因はタイマー割り込みがHART ID 0以外に入らないからです。Zephyrはタイマー割り込みによってカーネルの内部時間(Tick)を更新する他、割り込みを契機にコンテキストスイッチを行っています。
Zephyrでは通常の定期的なタイマー割り込みと、Tickless Timerという不定期なタイマー割り込みの仕組みがあります。通常のタイマーの場合、一定時間ごとにタイマー割り込みを発生(例えば10msごとなど)させ、1Tickずつ時間を進めます。実装は単純ですが、用もなくタイマー割り込みが発生するため、消費電力や処理性能に悪影響を及ぼします。
Tickless Timerの場合、各CPUが「最後に割り込みが発生した時刻」を記録しておいて、タイマー、タイマー以外の割り込みが発生した際に、前回の割り込みからどれだけ時間が経過したか、つまり、何Tick経過したか?を計算して、一気に時間を進めます。また「次のタイマー割り込みの設定」は、できるだけ遠く(現在時刻 +1 Tick)に設定して、無用なタイマー割り込みが発生しないように工夫されています。
「最後に割り込みが発生した時刻」と「次のタイマー割り込みの設定」はCPUが割り込みを受けたタイミングによって値が変わり、全CPUで共有する値ではありませんから、CPUごとに専用の場所を用意する必要があります。
// zephyr/drivers/timer/riscv_machine_timer.c(変更前)
static struct k_spinlock lock;
static uint64_t last_count;
static void set_mtimecmp(uint64_t time)
{
#ifdef CONFIG_64BIT
*(volatile uint64_t *)RISCV_MTIMECMP_BASE = time;
#else
volatile uint32_t *r = (uint32_t *)RISCV_MTIMECMP_BASE;
// zephyr/drivers/timer/riscv_machine_timer.c(変更後)
#define RISCV_MTIMECMP (RISCV_MTIMECMP_BASE + (uintptr_t)z_riscv_hart_id() * 8) //★「次のタイマー割り込みの設定」★
#define last_count last_count_mp[z_riscv_hart_id()] //★「最後に割り込みが発生した時刻」★
static struct k_spinlock lock;
static uint64_t last_count_mp[CONFIG_MP_NUM_CPUS]; //★CPUの数だけ配列を確保★
static void set_mtimecmp(uint64_t time)
{
#ifdef CONFIG_64BIT
*(volatile uint64_t *)RISCV_MTIMECMP = time;
#else
volatile uint32_t *r = (uint32_t *)RISCV_MTIMECMP;
今回のSMP対応ではMTIMECMPレジスタの幅が64bitであることがわかれば、動作の詳細を知らなくても読み進められると思います。
仕様が気になる場合は、SiFive Core Local Interruptor(CLINT)の仕様を参照ください。CLINTはFE310もしくはFU540のマニュアルに載っています。FE310はシングルコア、FU540はマルチコアです(FE310-G002 Manual, FU540-C000 Manual)。
以上の対応でHART ID 0以外もタイマー割り込みが入るようになり、スケジューラが動作するようになったはずです。
$ qemu-system-riscv32 -nographic -machine virt -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/zephyr.elf -cpu rv32 -smp cpus=4 -bios none ** Booting Zephyr OS build zephyr-v2.4.0-546-g720718653f92 *** 3: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 3: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! 3: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 3: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! ...
HART ID = 3で実行されています。やったね。以降、実行するHARTを一時的にずらす変更は不要なので、元に戻すことを忘れないようにしてください。
目次: Zephyr
前回はCONFIG_SMPのビルドエラーと実行時エラーに対応しました。以前書いたとおり、SMP対応は下記の手順で進めていますので、再掲します。
前回までで2番目の項目が終わったところです。今回はコア数を増やして先頭以外のコアで実行します。
Zephyrを書き換える前に、変更した効果が確認できる環境を作りましょう。サンプルのsynchronizationを少し改造してHART IDを表示します。
// zephyr/samples/synchronization/src/main.c
void helloLoop(const char *my_name,
struct k_sem *my_sem, struct k_sem *other_sem)
{
const char *tname;
while (1) {
int id = z_riscv_hart_id(); //★HART IDを取得★
/* take my semaphore */
k_sem_take(my_sem, K_FOREVER);
/* say "hello" */
tname = k_thread_name_get(k_current_get());
if (tname != NULL && tname[0] != '\0') {
printk("%d: %s: Hello World from %s!\n",
id, tname, CONFIG_BOARD); //★HART IDを一緒に表示する★
} else {
printk("%d: %s: Hello World from %s!\n",
id, my_name, CONFIG_BOARD); //★HART IDを一緒に表示する★
}
今回は変更してもしなくても構わないですが、カーネルコンフィグを変えるとk_thread_name_get() でスレッド名が取得できるようになります。スレッドを多数作成したときに便利です。
$ ninja menuconfig General Kernel Options ---> Kernel Debugging and Metrics ---> [*] Thread name [EXPERIMENTAL]
動作させると下記のような表示になるはずです。
$ mkdir build $ cd build $ cmake -G Ninja -DBOARD=qemu_rv32_virt ../samples/synchronization/ ... $ ninja ... $ qemu-system-riscv32 -nographic -machine virt -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/zephyr.elf -cpu rv32 -smp cpus=1 -bios none ** Booting Zephyr OS build zephyr-v2.4.0-546-g720718653f92 *** 0: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 0: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! 0: thread_a: Hello World from QEMU RV32 virt board! 0: thread_b: Hello World from QEMU RV32 virt board! ...
HART ID = 0で実行されていることがわかります。
続きは次回です。
目次: Zephyr
SMP対応のうち、ビルドエラーの対処が終わったので、実行時エラーに対処します。
CONFIG_SMPを有効にすると、k_spin_lock() 内でatomic_cas() を呼ぶようになります。するとk_spin_lock() -> atomic_cas() -> z_impl_atomic_cas() -> k_spin_lock() という循環呼び出しが発生し、スタックオーバーフローを起こしてクラッシュします。これはZephyrのバグではなくコンフィグの設定間違いが原因です。
// zephyr/include/spinlock.h
static ALWAYS_INLINE k_spinlock_key_t k_spin_lock(struct k_spinlock *l)
{
ARG_UNUSED(l);
k_spinlock_key_t k;
/* Note that we need to use the underlying arch-specific lock
* implementation. The "irq_lock()" API in SMP context is
* actually a wrapper for a global spinlock!
*/
k.key = arch_irq_lock();
#ifdef CONFIG_SPIN_VALIDATE
__ASSERT(z_spin_lock_valid(l), "Recursive spinlock %p", l);
#endif
#ifdef CONFIG_SMP
while (!atomic_cas(&l->locked, 0, 1)) { //★CONFIG_SMPが有効だとatomic_cas() を呼ぶ★
}
#endif
...
// zephyr/include/sys/atomic.h
#ifdef CONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_BUILTIN
static inline bool atomic_cas(atomic_t *target, atomic_val_t old_value,
atomic_val_t new_value)
{
return __atomic_compare_exchange_n(target, &old_value, new_value,
0, __ATOMIC_SEQ_CST,
__ATOMIC_SEQ_CST);
}
#elif defined(CONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_C) //★既存のRISC-Vボードはこちらが有効になっている★
__syscall bool atomic_cas(atomic_t *target, atomic_val_t old_value,
atomic_val_t new_value);
#else
extern bool atomic_cas(atomic_t *target, atomic_val_t old_value,
atomic_val_t new_value);
#endif
...
// build/zephyr/include/generated/syscalls/atomic.h
static inline bool atomic_cas(atomic_t * target, atomic_val_t old_value, atomic_val_t new_value)
{
#ifdef CONFIG_USERSPACE
if (z_syscall_trap()) {
return (bool) arch_syscall_invoke3(*(uintptr_t *)&target, *(uintptr_t *)&old_value, *(uintptr_t *)&new_value, K_SYSCALL_ATOMIC_CAS);
}
#endif
compiler_barrier();
return z_impl_atomic_cas(target, old_value, new_value); //★ここにくる★
}
...
// zephyr/kernel/CMakeLists.txt
target_sources_ifdef(CONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_C kernel PRIVATE atomic_c.c) //★CONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_C有効のとき実装はatomic_c.c★
...
// zephyr/kernel/atomic_c.c
bool z_impl_atomic_cas(atomic_t *target, atomic_val_t old_value,
atomic_val_t new_value)
{
k_spinlock_key_t key;
int ret = false;
key = k_spin_lock(&lock); //★循環呼び出し★
if (*target == old_value) {
*target = new_value;
ret = true;
}
k_spin_unlock(&lock, key);
return ret;
}
...
RISC-VのSoCのコンフィグでは大抵CONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_Cが有効になっていて、atomic_cas() の実装としてスピンロックを使います。これはSMPと相性が悪く、CONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_CとCONFIG_SMPを同時に有効にすると先ほど説明した循環呼び出しが発生してしまいます。
循環呼び出しを防ぐには独自にatomic_cas() を実装する必要がありますが、アトミック操作を自分で実装&検証するのは大変ですから、RISC-Vのアトミック命令(Atomic Extension)とコンパイラの機能を頼ります。
以前追加したQEMU RISC-V 32bit virtpc用のコンフィグをSMPのテスト用に改造します。
# zephyr/soc/riscv/riscv-privilege/rv32-virt/Kconfig.soc
config SOC_QEMU_RV32_VIRT
bool "QEMU RV32 virt SOC implementation"
select ATOMIC_OPERATIONS_C if !SMP # 非SMPのときは従来通り
select ATOMIC_OPERATIONS_BUILTIN if SMP # SMPのときはAtomic Extensionに頼る
コンフィグCONFIG_ATOMIC_OPERATIONS_BUILTINを有効にすると、Zephyrはatomic_cas() の実装として __atomic_compare_exchange_n() ビルトイン関数を使います。ビルトイン関数を使うにはコンパイラのサポートが必要で、今のところ、サポートしているのはGCCのみだと思います。LLVMでも使えるかもしれませんが、未調査です。
これでCONFIG_SMPを有効にしても、エラーやハングアップすることなく、今までどおりに動作するようになったはずです。
目次: Zephyr
SMP対応の序盤、ビルドエラー対処の続きです。
ビルドの難所です。CONFIG_SMPを有効にするとisr.Sで大量にエラーが出ます。
zephyr/arch/riscv/core/isr.S:305: Error: illegal operands `lw sp,_kernel_offset_to_irq_stack(t2)'
zephyr/arch/riscv/core/isr.S:316: Error: illegal operands `lw t3,_kernel_offset_to_nested(t2)'
zephyr/arch/riscv/core/isr.S:376: Error: illegal operands `sw t2,_kernel_offset_to_nested(t1)'
zephyr/arch/riscv/core/isr.S:463: Error: illegal operands `lw t1,(0x78+___ready_q_t_cache_OFFSET)(t0)'
zephyr/arch/riscv/core/isr.S:468: Error: illegal operands `sw t1,_kernel_offset_to_current(t0)'
原因は_kernel_offset_* 系のオフセットマクロが未定義になるためです。
// zephyr/kernel/include/offsets_short.h
#ifndef CONFIG_SMP
/* Relies on _kernel.cpu being the first member of _kernel and having 1 element
*/
#define _kernel_offset_to_nested \r (___cpu_t_nested_OFFSET)
#define _kernel_offset_to_irq_stack \r (___cpu_t_irq_stack_OFFSET)
#define _kernel_offset_to_current \r (___cpu_t_current_OFFSET)
#endif /* CONFIG_SMP */
#define _kernel_offset_to_idle \r (___kernel_t_idle_OFFSET)
#define _kernel_offset_to_current_fp \r (___kernel_t_current_fp_OFFSET)
#define _kernel_offset_to_ready_q_cache \r (___kernel_t_ready_q_OFFSET + ___ready_q_t_cache_OFFSET)
...
// zephyr/include/kernel_offsets.h
...
#ifndef CONFIG_SMP
GEN_OFFSET_SYM(_ready_q_t, cache);
#endif
当たり前ですが、この #ifdefを外すだけではSMPは動きません。対策方法を理解するには、Zephyrのカーネル構造体の内部に、少しだけ立ち入る必要があります。
カーネル構造体は_kernelという名前で何度か出ていましたが、見覚えありますか?なくても全然構わないです。下記のような定義の構造体です。細かい定義はさておき、大事なことはcpusが _kernelの先頭にある、という点です。
// zephyr/kernel/sched.c
/* the only struct z_kernel instance */
struct z_kernel _kernel;
// zephyr/include/kernel_structs.h
struct z_kernel {
struct _cpu cpus[CONFIG_MP_NUM_CPUS]; //★_kernelの先頭にcpusがある★
#ifdef CONFIG_SYS_CLOCK_EXISTS
/* queue of timeouts */
sys_dlist_t timeout_q;
#endif
#ifdef CONFIG_SYS_POWER_MANAGEMENT
int32_t idle; /* Number of ticks for kernel idling */
#endif
/*
* ready queue: can be big, keep after small fields, since some
* assembly (e.g. ARC) are limited in the encoding of the offset
*/
struct _ready_q ready_q;
...
// zephyr/include/kernel_structs.h
struct _cpu {
/* nested interrupt count */
uint32_t nested;
/* interrupt stack pointer base */
char *irq_stack;
/* currently scheduled thread */
struct k_thread *current;
/* one assigned idle thread per CPU */
struct k_thread *idle_thread;
...
CPUが1つしか存在しない場合、cpusの要素数は1であり、_kernelの先頭 = cpus[0] の先頭になります。そのため _kernel.cpus[0].currentのオフセット = cpu構造体のcurrentへのオフセット、です。offsets_short.hの定義はこの性質を利用しています。
C言語だとcpus[0] とcpus[i] の違いでしかなく、ありがたみがわかりませんが、アセンブラだと非常に単純かつ高速にオフセットを求めることができます。下記はisr.Sから持ってきた例ですが、_kernel.cpus[0].currentへのアクセスがわずか2命令で実現できます。
la t0, _kernel
RV_OP_LOADREG t0, _kernel_offset_to_current(t0)
残念ながらSMPの場合はcpusが1つではありませんから、上記の最適化は使えません。cpus[n] のオフセット、つまりHART ID * sizeof(struct _cpu) を計算する必要があります。
まずはstruct _cpuのオフセットマクロが未定義なので、追加します。ZephyrではGEN_ABSOLUTE_SYM() というマクロが用意されており、アセンブラ用のマクロを生成してくれます。便利ですね。
// zephyr/arch/riscv/core/offsets/offsets.c
#ifdef CONFIG_SMP
GEN_ABSOLUTE_SYM(__cpu_t_SIZEOF, sizeof(_cpu_t));
#endif
次にisr.Sのビルドエラーが出ている箇所を直します。
// zephyr/arch/riscv/core/isr.S
/*
* xreg0: result &_kernel.cpu[mhartid]
* xreg1: work area
*/
.macro z_riscv_get_cpu xreg0, xreg1
#ifdef CONFIG_SMP
csrr xreg0, mhartid
addi xreg1, x0, __cpu_t_SIZEOF
mul xreg1, xreg0, xreg1
la xreg0, _kernel
add xreg0, xreg0, xreg1
#else
la xreg0, _kernel
#endif
.endm
//(変更前)
/* Get reference to _kernel */
la t1, _kernel
/* Decrement _kernel.cpus[0].nested variable */
lw t2, _kernel_offset_to_nested(t1)
addi t2, t2, -1
sw t2, _kernel_offset_to_nested(t1)
//(変更後)
/* Get reference to _kernel.cpus[n] */
z_riscv_get_cpu t1, t2 //★z_riscv_get_cpuに置き換え★
/* Decrement _kernel.cpus[n].nested variable */
lw t2, ___cpu_t_nested_OFFSET(t1) //★_kernel_offset_to_* から ___cpu_t_*_OFFSETに置き換え★
addi t2, t2, -1
sw t2, ___cpu_t_nested_OFFSET(t1)
修正方針は2つあります。
ここまで直すとビルドが通るはずですが、実はビルドが通るだけでは動きません。次回は実行時のエラーを対策します。
目次: Zephyr
新しい形式のコンテキストスイッチを実装しました。以前書いたとおり、SMP対応は下記の手順で進めています。再掲しておきましょう。
やっと最初の項目が終わったところです。いよいよCONFIG_SMPを有効にします。大量のビルドエラーが発生しますので、1つずつやっつけます。
環境や利用するバージョンによりますが、最初に目にするのはarch_curr_cpu() に関するコンパイルエラーだと思われます。
../include/sys/arch_interface.h:367:28: warning: 'arch_curr_cpu' declared 'static' but never defined [-Wunused-function] static inline struct _cpu *arch_curr_cpu(void); ^~~~~~~~~~~~~
この関数は、現在のCPU(= 実行中のCPU)の情報を返します。RISC-Vにはmhartidという自身のHART IDを取得できるCSR(Control and Status Registers)が規格で定められており、この手の処理は楽に実装できます。
// zephyr/include/arch/riscv/arch_inlines.h
static inline uint32_t z_riscv_hart_id(void)
{
uint32_t hartid;
__asm__ volatile ("csrr %0, mhartid" : "=r"(hartid));
return hartid;
}
static inline struct _cpu *arch_curr_cpu(void)
{
#ifdef CONFIG_SMP
uint32_t hartid = z_riscv_hart_id();
return &_kernel.cpus[hartid];
#else
return &_kernel.cpus[0];
#endif
}
他のアーキテクチャを見る限りarch_inlines.hに定義するのが良さそうですが、RISC-V向けには存在しません。新たに追加しましょう。ヘッダファイルを追加したら、親玉のarch_inlines.hに #includeを追加します。
// zephyr/include/arch/arch_inlines.h
...
#if defined(CONFIG_X86) || defined(CONFIG_X86_64)
#include <arch/x86/arch_inlines.h>
#elif defined(CONFIG_ARC)
#include <arch/arc/arch_inlines.h>
#elif defined(CONFIG_XTENSA)
#include <arch/xtensa/arch_inlines.h>
#elif defined(CONFIG_RISCV) //★この2行を追加する
#include <arch/riscv/arch_inlines.h> //★
#endif
このヘッダは明示的に #includeしなくても常にインクルードされます。
メインCPU以外のCPU(2つ目以降のCPU)を起動するための関数です。SMPモードの他、非SMPモード(※)でも使います。今はCPU 1つで動かすので、とりあえず空関数を定義します。
関数はどこに定義しても動きますが、他アーキテクチャの実装を見るとSMP関連の関数は1つのCソースファイルにまとめた方が良さそうなので、新たにcpu_smp.cを作成します。
// zephyr/arch/riscv/core/CMakeLists.txt
zephyr_library_sources(
cpu_idle.c
cpu_smp.c ★足す★
fatal.c
irq_manage.c
isr.S
prep_c.c
reset.S
swap.S
thread.c
)
// zephyr/arch/riscv/core/cpu_smp.c
void arch_start_cpu(int cpu_num, k_thread_stack_t *stack, int sz,
arch_cpustart_t fn, void *arg)
{
}
ZephyrというかCMakeのルールですけども、新たにソースコードを追加した場合、CMakeLists.txtにファイル名を追加しコンパイル対象に指定する必要があります。特定のCONFIG_* が定義されたときだけコンパイルすることも可能ですが、今回は不要です。
(※)Zephyrのマルチプロセッサモードには、SMPモードと非SMPモードがあります。SMPモードは、互いのプロセッサ間でIPI(Inter-Processor Interrupt)を用いて制御します。非SMPモードでは、互いのプロセッサのことは何も考慮せず動作します。
これはSMP用のタイマーの初期化関数です。タイマーのハードウェア構成はアーキテクチャによって様々で、一様に「こう実装すべき」という指針はありません。今はCPU 1つで動かすので、とりあえず空関数を定義します。
// zephyr/drivers/timer/riscv_machine_timer.c
...
void smp_timer_init(void)
{
}
今回はRISC-VのPrivilege modeのタイマーが実装対象です。タイマードライバはriscv_machine_timer.cになります。
長くなってきたので、続きは次回。
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