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2020年2月21日

ZephyrとRISC-Vとマルチプロセッサ

目次: Zephyr

昨日(2020年2月20日の日記参照)の続きです。

シリアルのみですが、ZephyrをQEMU RISC-V 32のvirtモードに移植しました。やっとZephyrが4 CPUで動くぞ、などと思っていましたが、全然ダメでした。2つ目以降のCPUは全く動きませんでした。

CPU 0は動作するが、他のCPUはloop_slave_coreから動かない
$ riscv64-zephyr-elf-gdb zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

(gdb) info threads
  Id   Target Id                    Frame
* 1    Thread 1.1 (CPU#0 [halted ]) 0x80000f70 in arch_cpu_idle ()
    at zephyr/soc/riscv/riscv-privilege/common/idle.c:21
  2    Thread 1.2 (CPU#1 [halted ]) loop_slave_core ()
    at zephyr/arch/riscv/core/reset.S:45
  3    Thread 1.3 (CPU#2 [halted ]) loop_slave_core ()
    at zephyr/arch/riscv/core/reset.S:45
  4    Thread 1.4 (CPU#3 [halted ]) loop_slave_core ()
    at zephyr/arch/riscv/core/reset.S:45

理由は簡単で、ZephyrのRISC-V版はSMPに対応していないからです。何を言ってるんだ?って?ええ、実は私も今この瞬間まで知りませんでした。ビックリしました。

リセット付近のソースコードをみると、

Zephyrのリセットベクタ

// zephyr/arch/riscv/core/reset.S

/*
 * Remainder of asm-land initialization code before we can jump into
 * the C domain
 */
SECTION_FUNC(TEXT, __initialize)
        /*
         * This will boot master core, just halt other cores.
         * Note: need to be updated for complete SMP support
         */
        csrr a0, mhartid
        beqz a0, boot_master_core

loop_slave_core:
        wfi
        j loop_slave_core

以上のように、はっきり書いてあります。SMPは一番大事な機能だと思っていただけに、未対応とは思わなんだ。

あー、今日の16550との戦いは一体何だったんだろう。しょんぼりですわ……。

メモ: 技術系の話はFacebookから転記しておくことにした。大幅に加筆した。

編集者:すずき(2023/09/24 12:06)

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2020年2月20日

Zephyrの16550シリアルドライバ

目次: Zephyr

先日はZepphyrをQEMUのSpikeモードに移植しましたが、SpikeモードだとCPU数は1以外選べないので、マルチプロセッサにできません。これは知りませんでした。最初に調べておけば良かったですね……。

マルチプロセッサでZephyrを動かしてみたかったので、QEMU RISC-V 32のvirtモード(qemu-system-riscv32のmachineをvirtにすること)に、前回同様にシリアルとメモリだけ動くようなSoCとボードの定義ファイルを作りました。

QEMU virtモードでは、シリアルのハードウェアとして16550をエミュレーションします。Zephyr側には既に16550用のドライバがあるので、わざわざ実装する必要もありません。とても楽です、素晴らしいです、とか何とか思いつつ動かしてみると、シリアルドライバがクラッシュします。んあー。

シリアルドライバが動かない理由

ZephyrをGDBで追うと16550のLCRレジスタを読もうとして、ロードアクセスフォルトが起きていました。アドレスのオフセットを見ると、0xcになっています。正しいオフセットは3のはずです。

シリアルドライバの実装を見ると、オフセットの計算が0x3 x 4 = 0xcとなっていて、おそらくレジスタサイズが4バイト単位だと思ってアクセスしているのでしょう。

世の中にはレジスタが4バイトの実装もあるかもしれませんが、残念なことにQEMUは由緒正しい(?)実装なので16550のレジスタは「1バイト」単位です。4バイト単位でアクセスすると、全く関係ない領域が破壊されます。困りました。

問題を解決するには、SoCの定義ファイルのどこか(soc.h辺りかな?)で、
#define DT_NS16550_REG_SHIFT 0
を定義し、レジスタのサイズが2^0つまり1バイト単位であることを16550シリアルドライバに教える必要があるみたいです。とても大事なことだと思いますが、全くドキュメントに書いていないように見えます。

そこそこコード見ないとわからないので、つらいです……。

シリアルドライバが動いた

無事シリアルが動作したので、QEMUを4 CPUのマルチプロセッサ設定で起動し、GDBで覗いてみます。

QEMU virtモードでマルチプロセッサと、その確認
$ qemu-system-riscv32 -nographic -machine virt -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/build/zephyr/zephyr.elf -cpu rv32 -smp cpus=4 -s -S

qemu-system-riscv32: warning: No -bios option specified. Not loading a firmware.
qemu-system-riscv32: warning: This default will change in a future QEMU release. Please use the -bios option to avoid breakages when this happens.
qemu-system-riscv32: warning: See QEMU's deprecation documentation for details.
*** Booting Zephyr OS build v2.2.0-rc1-123-gcaca3f60b012  ***
threadA: Hello World from QEMU RV32 virt board!
threadB: Hello World from QEMU RV32 virt board!
threadA: Hello World from QEMU RV32 virt board!
threadB: Hello World from QEMU RV32 virt board!
...


$ riscv64-zephyr-elf-gdb zephyr/build/zephyr/zephyr.elf 

...

Type "apropos word" to search for commands related to "word"...
Reading symbols from build/zephyr/zephyr.elf...

(gdb) target remote localhost:1234
Remote debugging using localhost:1234
0x00001000 in ?? ()

(gdb) info threads
  Id   Target Id                    Frame
* 1    Thread 1.1 (CPU#0 [running]) 0x00001000 in ?? ()
  2    Thread 1.2 (CPU#1 [running]) 0x00001000 in ?? ()
  3    Thread 1.3 (CPU#2 [running]) 0x00001000 in ?? ()
  4    Thread 1.4 (CPU#3 [running]) 0x00001000 in ?? ()

確かに4 CPUが存在していることがわかります。ZephyrのログはGDB側でcontinueすると出てきます。アプリケーションは、hello_worldではなくsamples/synchronizationを使っています。

メモ: 技術系の話はFacebookから転記しておくことにした。大幅に加筆した。

編集者:すずき(2023/09/24 12:06)

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2020年2月19日

Zephyrのブート処理 - ドライバの初期化情報とリンカーの妙技

目次: Zephyr

引き続き、ドライバの初期化に重要な役割を果たしている __device_PRE_KERNEL_1_start[] の謎を追っていきます。謎は「__device_PRE_KERNEL_1_start[] の実体はバイナリにあるもののソースコードには見当たらない」ことです。前回まででわかったことを復習すると、

  • __device_PRE_KERNEL_1_start[] の要素である初期化情報(__device_sys_init_init_static_pools3など)は、各ドライバの宣言SYS_INIT(), DEVICE_AND_API_INIT() などのAPIで作成される
  • __device_sys_init_init_static_pools3は .init_PRE_KERNEL_130セクションに配置される

配列の要素がどうやってできたかわかったので、残る謎は下記になります。

  • __device_PRE_KERNEL_1_start[] を構成する方法(__device_sys_init_init_static_pools3などを集めてくる方法)

これまた復習になりますが、__device_PRE_KERNEL_1_start[] はinitlevelセクションに配置されていました。

ドライバの初期化情報が配置されているセクション
$ riscv64-zephyr-elf-readelf -a zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

Section Headers:
  [Nr] Name              Type            Addr     Off    Size   ES Flg Lk Inf Al
  [ 0]                   NULL            00000000 000000 000000 00      0   0  0
  [ 1] vector            PROGBITS        80000000 000060 000010 00  AX  0   0  4
  [ 2] exceptions        PROGBITS        80000010 000070 000258 00  AX  0   0  4
  [ 3] text              PROGBITS        80000268 0002c8 002604 00  AX  0   0  4
  [ 4] sw_isr_table      PROGBITS        8000286c 0028cc 000080 00  WA  0   0  4
  [ 5] devconfig         PROGBITS        800028ec 00294c 000030 00   A  0   0  4
  [ 6] rodata            PROGBITS        8000291c 00297c 000305 00   A  0   0  4
  [ 7] datas             PROGBITS        80002c24 002c84 000014 00  WA  0   0  4
  [ 8] initlevel         PROGBITS        80002c38 002c98 000030 00  WA  0   0  4    ★ここに配置される★
  [ 9] _k_mutex_area     PROGBITS        80002c68 002cc8 000014 00  WA  0   0  4
  [10] bss               NOBITS          80002c80 002cdc 000140 00  WA  0   0  8
  [11] noinit            NOBITS          80002dc0 002cdc 000e00 00  WA  0   0 16
  ...

思い出していただきたいのは、配列の要素は .init_PRE_KERNEL_130セクションに置かれていて、initlevelセクションではなかったことです。つまり誰かがわざわざinitlevelセクションに置き直しています。

そんな芸当ができるのはリンカーしかいませんので、initlevelをキーワードにリンカースクリプトを探します。

initlevelセクションを作るリンカースクリプト
// zephyr/include/linker/common-ram.ld

...

        SECTION_DATA_PROLOGUE(initlevel,,)
        {
                DEVICE_INIT_SECTIONS()
        } GROUP_DATA_LINK_IN(RAMABLE_REGION, ROMABLE_REGION)


// zephyr/include/linker/linker-defs.h

/*
 * generate a symbol to mark the start of the device initialization objects for
 * the specified level, then link all of those objects (sorted by priority);
 * ensure the objects aren't discarded if there is no direct reference to them
 */

#define DEVICE_INIT_LEVEL(level)                                \
                __device_##level##_start = .;                   \
                KEEP(*(SORT(.init_##level[0-9])));              \
                KEEP(*(SORT(.init_##level[1-9][0-9]))); \

/*
 * link in device initialization objects for all devices that are automatically
 * initialized by the kernel; the objects are sorted in the order they will be
 * initialized (i.e. ordered by level, sorted by priority within a level)
 */

#define DEVICE_INIT_SECTIONS()                  \
                __device_init_start = .;        \
                DEVICE_INIT_LEVEL(PRE_KERNEL_1) \
                DEVICE_INIT_LEVEL(PRE_KERNEL_2) \
                DEVICE_INIT_LEVEL(POST_KERNEL)  \
                DEVICE_INIT_LEVEL(APPLICATION)  \
                __device_init_end = .;          \
                DEVICE_BUSY_BITFIELD()          \

DEVICE_AND_API_INITの宣言を思い出すと、ドライバなどで宣言される初期化セクションの名前は .init_(level)(prio) のような名前でした。DEVICE_INIT_LEVEL() はその法則性に従ってセクションを集めます。最終的に集められたセクションは、全てinitlevelセクションに配置されます。

例えばDEVICE_INIT_SECTIONS() の2行目にあるDEVICE_INIT_LEVEL(PRE_KERNEL_1) ですと、.init_PRE_KERNEL_1(数字) という名前のセクションを集めます。

というわけで、やっと謎が解けました。マクロやリンカースクリプトの見事な連携プレイですね。

prioの制限とエラーチェック

実装を見て気づいたと思いますが、DEVICE_AND_API_INIT() のprioに渡せる数字は2桁が上限です。DEVICE_INIT_LEVEL() は [0-9] もしくは [1-9][0-9] のパターンしかマッチしません。

試しに優先度を3桁にするとどうなるでしょう?mempool.cではCONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTSをprioに渡していたので、menuconfigでコンフィグを変えてみます。

3桁のprioにしてはいけない
$ ninja menuconfig

General Kernel Options  --->
  Initialization Priorities  --->
    (30) Kernel objects initialization priority

このパラメータを300に変更すると…?

riscv64-zephyr-elf/bin/ld: Undefined initialization levels used.
collect2: error: ld returned 1 exit status

リンク時にエラーで怒られました。これはどうやっているのでしょう?実はそんなに難しくありません。initlevelセクションを作るときとほぼ同じ仕組みです。

initlevelで拾えなかった .init_* 系セクションの検知

// zephyr/include/linker/common-ram.ld

        /* verify we don't have rogue .init_<something> initlevel sections */
        SECTION_DATA_PROLOGUE(initlevel_error,,)
        {
                DEVICE_INIT_UNDEFINED_SECTION()
        }
        ASSERT(SIZEOF(initlevel_error) == 0, "Undefined initialization levels used.")


// include/linker/linker-defs.h

/* define a section for undefined device initialization levels */
#define DEVICE_INIT_UNDEFINED_SECTION()         \
                KEEP(*(SORT(.init_[_A-Z0-9]*))) \

このinitlevel_errorセクションでは、initlevelセクションが拾い損ねた .init_* 系のセクションを全て集めます。もし1つでもセクションが拾えた場合、initlevel_errorセクションのサイズが0ではなくなるため、ASSERTに引っかかる仕組みになっています。リンカースクリプトでASSERTやSORTができるとは知らなかったですね……。

エラーチェックもきっちり作られていてZephyrはさすが良くできているなあと思います。

編集者:すずき(2023/09/24 12:03)

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2020年2月18日

Zephyrのブート処理 - ドライバの初期化情報の謎

目次: Zephyr

ドライバの初期化に重要な役割を果たしている __device_PRE_KERNEL_1_start[] の謎を追っていきます。謎について復習すると「実体はバイナリにあるもののソースコードには見当たらない」という点でした。

ソースコードでわからなければバイナリを見るのも一つの手です。シンボルの一覧を調べます。

ドライバの初期化情報(シンボル)
$ riscv64-zephyr-elf-nm -n zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

80002c38 D __device_PRE_KERNEL_1_start
80002c38 D __device_init_start
80002c38 d __device_sys_init_init_static_pools3
80002c44 d __device_uart_spike
80002c50 d __device_sys_init_uart_console_init0
80002c5c D __device_PRE_KERNEL_2_start
80002c5c d __device_sys_init_z_clock_driver_init0
80002c68 D __device_APPLICATION_start
80002c68 D __device_POST_KERNEL_start
80002c68 D __device_init_end

...

メモリイメージを図示すると下記のような感じで、前回のドライバの初期化処理が期待していると予想した並びになっています。違っていたら動きませんから、当たり前ですけども。

ドライバの初期化情報(メモリイメージ)
======== 80002c38 <-- __device_PRE_KERNEL_1_start, __device_init_start
__device_sys_init_init_static_pools3

======== 80002c44
__device_uart_spike

======== 80002c50
__device_sys_init_uart_console_init0

======== 80002c5c <-- __device_PRE_KERNEL_2_start
__device_sys_init_z_clock_driver_init0

======== 80002c68 <-- __device_POST_KERNEL_start, __device_APPLICATION_start, __device_init_end

POST_KERNELとAPPLICATIONは何も要素を持っておらず、同じアドレスになってしまっているものの、確かにレベル順(PRE_KERNEL_1, PRE_KERNEL_2, POST_KERNEL, APPLICATION)に並んでいます。

ドライバの初期化情報が配置されているセクション
$ riscv64-zephyr-elf-readelf -a zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

Section Headers:
  [Nr] Name              Type            Addr     Off    Size   ES Flg Lk Inf Al
  [ 0]                   NULL            00000000 000000 000000 00      0   0  0
  [ 1] vector            PROGBITS        80000000 000060 000010 00  AX  0   0  4
  [ 2] exceptions        PROGBITS        80000010 000070 000258 00  AX  0   0  4
  [ 3] text              PROGBITS        80000268 0002c8 002604 00  AX  0   0  4
  [ 4] sw_isr_table      PROGBITS        8000286c 0028cc 000080 00  WA  0   0  4
  [ 5] devconfig         PROGBITS        800028ec 00294c 000030 00   A  0   0  4
  [ 6] rodata            PROGBITS        8000291c 00297c 000305 00   A  0   0  4
  [ 7] datas             PROGBITS        80002c24 002c84 000014 00  WA  0   0  4
  [ 8] initlevel         PROGBITS        80002c38 002c98 000030 00  WA  0   0  4    ★ここに配置される★
  [ 9] _k_mutex_area     PROGBITS        80002c68 002cc8 000014 00  WA  0   0  4
  [10] bss               NOBITS          80002c80 002cdc 000140 00  WA  0   0  8
  [11] noinit            NOBITS          80002dc0 002cdc 000e00 00  WA  0   0 16
  ...

実体はあるのにソースコードに見当たらず、initlevelという変わった名前のセクションに置かれています。どうやら通常のグローバル変数や、static変数ではなさそうです。

一番最初に出てくる __device_sys_init_init_static_pools3がどうやって作られるのか、追いかけたらわかるかもしれません。部分一致でも良いので、それっぽい名前をgrepするとkernel/mempool.cで見つかります。

mempoolシステムドライバの宣言

// zephyr/kernel/mempool.c

SYS_INIT(init_static_pools, PRE_KERNEL_1, CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS);


// zephyr/include/init.h

/* A counter is used to avoid issues when two or more system devices
 * are declared in the same C file with the same init function.
 */
#define Z_SYS_NAME(init_fn) _CONCAT(_CONCAT(sys_init_, init_fn), __COUNTER__)

/**
 * @def SYS_INIT
 *
 * @brief Run an initialization function at boot at specified priority
 *
 * @details This macro lets you run a function at system boot.
 *
 * @param init_fn Pointer to the boot function to run
 *
 * @param level The initialization level, See DEVICE_AND_API_INIT for details.
 *
 * @param prio Priority within the selected initialization level. See
 * DEVICE_AND_API_INIT for details.
 */
#define SYS_INIT(init_fn, level, prio) \
        DEVICE_AND_API_INIT(Z_SYS_NAME(init_fn), "", init_fn, NULL, NULL, level,\
        prio, NULL)


// (参考1)
//  init_fn = init_static_pools
//  level   = PRE_KERNEL_1
//  prio    = CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS
//
//  Z_SYS_NAME(init_static_pools) = sys_init_init_static_pools3

マクロの嵐で面食らいますが、基本的に引数をそのまま渡していくだけなので1つずつ見ればさほど難しくありません。

SYS_INIT() はmempoolがシステムドライバであることを宣言するためのAPIです(公式ドキュメント Device Driver Model - Zephyr Project Documentation, System Driver節)。最終的にはDEVICE_AND_API_INIT() が呼ばれます。実はこいつもマクロです、あとで紹介します。

若干難しいのはZ_SYS_NAME() でしょうか?このマクロはsys_init_ と、引数init_fnとカウンタ(__COUNTER__)を連結したトークンを返します。

私の環境でビルドしたときはinit_fnはinit_static_poolsで、__COUNTER__ は3でしたから、sys_init_ とinit_static_poolsと3が連結され、sys_init_init_static_pools3になります。このトークンがDEVICE_AND_API_INIT() の第一引数に渡されます。

シンボル名がsys_init_init_... とinitがダブっていて、変な名前だな?と思った方もいるでしょう、このZ_SYS_NAME() マクロが原因でした。ま、それはさておいて、続きを追いかけます。

ドライバの宣言マクロ

// zephyr/include/device.h

/**
 * @def DEVICE_AND_API_INIT
 *
 * @brief Create device object and set it up for boot time initialization,
 * with the option to set driver_api.
 *
 * @copydetails DEVICE_INIT
 * @param api Provides an initial pointer to the API function struct
 * used by the driver. Can be NULL.
 * @details The driver api is also set here, eliminating the need to do that
 * during initialization.
 */
#ifndef CONFIG_DEVICE_POWER_MANAGEMENT
#define DEVICE_AND_API_INIT(dev_name, drv_name, init_fn, data, cfg_info,  \
                            level, prio, api)                             \
        static const struct device_config _CONCAT(__config_, dev_name) __used \
        __attribute__((__section__(".devconfig.init"))) = {               \
                .name = drv_name, .init = (init_fn),                      \
                .config_info = (cfg_info)                                 \
        };                                                                \
        static Z_DECL_ALIGN(struct device) _CONCAT(__device_, dev_name) __used \
        __attribute__((__section__(".init_" #level STRINGIFY(prio)))) = { \
                .config = &_CONCAT(__config_, dev_name),                  \
                .driver_api = api,                                        \
                .driver_data = data                                       \
        }
#else
/*
 * Use the default device_pm_control for devices that do not call the
 * DEVICE_DEFINE macro so that caller of hook functions
 * need not check device_pm_control != NULL.
 */
#define DEVICE_AND_API_INIT(dev_name, drv_name, init_fn, data, cfg_info, \
                            level, prio, api)                            \
        DEVICE_DEFINE(dev_name, drv_name, init_fn,                       \
                      device_pm_control_nop, data, cfg_info, level,      \
                      prio, api)
#endif


//DEVICE_AND_API_INITを展開すると最終的に下記のようになる
//
//変数名
//  _CONCAT(__config_, dev_name) = __config_sys_init_init_static_pools3
//構造体メンバー
//  drv_name = ""
//  init_fn = init_static_pools
//  cfg_info = NULL
//なので、

static const struct device_config __config_sys_init_init_static_pools3 __used
__attribute__((__section__(".devconfig.init"))) = {
        .name = "",
        .init = init_static_pools,
        .config_info = NULL
};


//変数名
//  _CONCAT(__device_, dev_name) = __device_sys_init_init_static_pools3
//セクション名
//  level = PRE_KERNEL_1
//  prio = 30
//  ".init_" #level STRINGIFY(prio) = ".init_PRE_KERNEL_130"
//構造体メンバー
//  _CONCAT(__config_, dev_name) = __config_sys_init_init_static_pools3
//  api  = NULL
//  data = NULL
//なので、

static Z_DECL_ALIGN(struct device) __device_sys_init_init_static_pools3 __used
__attribute__((__section__(".init_PRE_KERNEL_130"))) = {
        .config = &__config_sys_init_init_static_pools3,
        .driver_api = NULL,
        .driver_data = NULL
}


//(参考2: DEVICE_AND_API_INITの引数と値)
//  dev_name = Z_SYS_NAME(init_fn) = Z_SYS_NAME(init_static_pools) = sys_init_init_static_pools3
//  drv_name = ""
//  init_fn  = init_fn = init_static_pools
//  data     = NULL
//  cfg_info = NULL
//  level    = level = PRE_KERNEL_1
//  prio     = prio = CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS = 30
//  api      = NULL

//(参考1: SYS_INITの引数と値)
//  init_fn = init_static_pools
//  level   = PRE_KERNEL_1
//  prio    = CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_OBJECTS = 30

ちょっと長いですがDEVICE_AND_API_INIT() を見ていくと、最後は上記のように __config_sys_init_init_static_pools3と __device_sys_init_init_static_pools3の2つの構造体の宣言に展開されることがわかります。

後者の __device_sys_init_init_static_pools3は、先程nmでzephyr.elfを見たときに出てきた、アイツです。それに加えて __device_sys_init_init_static_pools3は、.init_PRE_KERNEL_130という変な名前のセクションに配置されることもわかると思います。

理解が合っているか不安なときは、答え合わせとしてバイナリをチェックです。ビルド時に生成されるオブジェクトbuild/zephyr/kernel/CMakeFiles/kernel.dir/mempool.c.objのシンボルテーブルをobjdumpで確認するとわかりやすいです。

mempool.c.objのシンボルテーブル
$ riscv64-zephyr-elf-objdump -t zephyr/build/zephyr/kernel/CMakeFiles/kernel.dir/mempool.c.obj

...

00000000 l     O .bss.lock      00000000 lock
00000000 l    d  .devconfig.init        00000000 .devconfig.init
00000000 l     O .devconfig.init        0000000c __config_sys_init_init_static_pools3
00000000 l    d  .init_PRE_KERNEL_130   00000000 .init_PRE_KERNEL_130
00000000 l     O .init_PRE_KERNEL_130   0000000c __device_sys_init_init_static_pools3

...

セクション .init_PRE_KERNEL_130に __device_sys_init_init_static_pools3が配置されていることが確認できました。じゃあ、どうやって __device_PRE_KERNEL_1_startに含まれるようになるんでしょう?

続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/09/24 12:03)

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2020年2月17日

Zephyrのブート処理 - ドライバの初期化まで

目次: Zephyr

前回はリセット直後からC言語の関数と出会うところまでを紹介しました。今回はドライバの初期化までを紹介します。

最初のC言語の関数 _PrepC

// zephyr/arch/riscv/core/prep_c.c

void _PrepC(void)
{
        z_bss_zero();
#ifdef CONFIG_XIP
        z_data_copy();
#endif
#if defined(CONFIG_RISCV_SOC_INTERRUPT_INIT)
        soc_interrupt_init();
#endif
        z_cstart();
        CODE_UNREACHABLE;
}

ブート後に最初に出会うC言語の関数 _PrepC() ですが、実はまだグローバル変数の初期化が終わっていませんので、この関数で初期化しています。z_bss_zero() は、ゼロ初期化される変数の領域(BSS)を0で初期化します。z_data_copy() は、変数領域をROMからRAMにコピーします。

XIP(Execution In Place)が有効な場合、コード領域はFlash ROMなどに配置され、CPUはROMから直接コードを読み出して実行します。コード領域はそれで良いですが、変数の初期値もROMにおかれていて、そのままでは変数に書き込みできません。そのためROMからRAMにコピーする必要があります。

最後のz_start() まで来ると、やっと普通のC言語の世界です。

Zephyrの初期化処理

// zephyr/kernel/init.c

FUNC_NORETURN void z_cstart(void)
{

        ...

        /* perform basic hardware initialization */
        z_sys_device_do_config_level(_SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_1);    //★level = 0
        z_sys_device_do_config_level(_SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_2);


// zephyr/include/init.h

#define _SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_1    0
#define _SYS_INIT_LEVEL_PRE_KERNEL_2    1
#define _SYS_INIT_LEVEL_POST_KERNEL     2
#define _SYS_INIT_LEVEL_APPLICATION     3

初期化関数z_cstart() は、色々ごちゃごちゃやっているのですが、真ん中あたりでドライバの初期化が行われます。レベルをPRE_KERNEL_1 (level 0), PRE_KERNEL_2 (level 1) の順に指定して、z_sys_device_do_config_level() という関数を呼びます。ちなみにPOST_KERNEL (level 2), APPLICATION (level 3) はもっと後で、カーネルの初期化が終わった後に使われます。

初期化される対象はデバイスドライバ以外(後述の、メモリ割り当てシステムドライバなど)もありますけど、仕組みは同じみたいです。

ドライバの初期化処理

// zephyr/kernel/device.c

extern struct device __device_init_start[];
extern struct device __device_PRE_KERNEL_1_start[];
extern struct device __device_PRE_KERNEL_2_start[];
extern struct device __device_POST_KERNEL_start[];
extern struct device __device_APPLICATION_start[];
extern struct device __device_init_end[];

...

void z_sys_device_do_config_level(s32_t level)
{
        struct device *info;
        static struct device *config_levels[] = {
                __device_PRE_KERNEL_1_start,
                __device_PRE_KERNEL_2_start,
                __device_POST_KERNEL_start,
                __device_APPLICATION_start,
                /* End marker */
                __device_init_end,
        };

        for (info = config_levels[level]; info < config_levels[level+1];
                                                                info++) {
                int retval;
                const struct device_config *device_conf = info->config;
                ...

実装は上記のようになっています。level 0の場合は __device_PRE_KERNEL_1_start[] という配列を先頭から処理します。他のレベルも同様ですね。

ドライバの初期化情報
======== <-- config_levels[0]
__device_PRE_KERNEL_1_start[0]
__device_PRE_KERNEL_1_start[1]
...
__device_PRE_KERNEL_1_start[n]
======== <-- config_levels[1]
__device_PRE_KERNEL_2_start[0]
__device_PRE_KERNEL_2_start[1]
...
__device_PRE_KERNEL_2_start[n]
======== <-- config_levels[2]
__device_POST_KERNEL_start[0]
__device_POST_KERNEL_start[1]
...
__device_POST_KERNEL_start[n]
======== <-- config_levels[3]
__device_APPLICATION_start[0]
__device_APPLICATION_start[1]
...
__device_APPLICATION_start[n]
======== <-- __device_init_end

このようにメモリ上にstruct deviceがレベル順に並んでいることを期待しているようです。しかし配列の実体はCのソースコード上には存在しないように見えます。これは一体何者なんでしょう?

続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/09/24 12:02)

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2020年2月16日

Zephyrのブート処理 - C言語と出会うまで

目次: Zephyr

以前(2020年2月1日の日記参照)Zephyrのエントリアドレスを調べましたが、もう少し先までZephyrのブート処理を調べます。復習となりますが、起動の仕方は下記のとおりです。

QEMU SpikeモードでZephyrを起動
$ qemu-system-riscv32 -nographic -machine spike -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/build/zephyr/zephyr.elf -s -S

$ riscv64-zephyr-elf-gdb zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

...

(gdb) target remote localhost:1234
Remote debugging using localhost:1234
0x00001000 in ?? ()

ブート処理を追うにはデバッガが必須です(ブート部分でシリアル出力はできません)。これも前回の復習となりますが、QEMUはGDBでデバッグするためのオプションを持っています。オプション -sはGDBの接続をlocalhost:1234で受け付けます、という意味で、オプション -SはエミュレータをHalted状態で起動するという意味です。

GDBを接続すると、PCは0x1000を指しています。QEMU Spikeモードはリセット後0x1000から実行を開始するようです。何度かステップ実行siを行うと、0x1010から0x80000000にジャンプするはずです。

QEMUブート直後

   0x1000:      auipc   t0,0x0
   0x1004:      addi    a1,t0,32
   0x1008:      csrr    a0,mhartid
   0x100c:      lw      t0,24(t0)
=> 0x1010:      jr      t0        # 0x80000000にジャンプ

0x1000: 0x00000297      0x02028593      0xf1402573      0x0182a283
0x1010: 0x00028067      0x00000000      0x80000000      0x00000000
                                        ↑この値をロードする

特に難しい話ではなく0x1000 + 24 = 0x1018からロード(0x80000000が書かれている)して、ジャンプするだけです。ジャンプ先にはZephyrのエントリポイント __startがいます。

__start(0x80000000ジャンプ後)

// zephyr/soc/riscv/riscv-privilege/common/vector.S

SECTION_FUNC(vectors, __start)
        .option norvc;

        /*
         * Set mtvec (Machine Trap-Vector Base-Address Register)
         * to __irq_wrapper.
         */
        la t0, __irq_wrapper
        csrw mtvec, t0

        /* Jump to __initialize */
        tail __initialize


// zephyr/arch/riscv/core/isr.S

/*
 * Handler called upon each exception/interrupt/fault
 * In this architecture, system call (ECALL) is used to perform context
 * switching or IRQ offloading (when enabled).
 */
SECTION_FUNC(exception.entry, __irq_wrapper)
        /* Allocate space on thread stack to save registers */
        addi sp, sp, -__z_arch_esf_t_SIZEOF

        /*
         * Save caller-saved registers on current thread stack.
         * NOTE: need to be updated to account for floating-point registers
         * floating-point registers should be accounted for when corresponding
         * config variable is set
         */
        RV_OP_STOREREG ra, __z_arch_esf_t_ra_OFFSET(sp)
        RV_OP_STOREREG gp, __z_arch_esf_t_gp_OFFSET(sp)
        RV_OP_STOREREG tp, __z_arch_esf_t_tp_OFFSET(sp)
        RV_OP_STOREREG t0, __z_arch_esf_t_t0_OFFSET(sp)
        ...

__startは __irq_wrapper関数のアドレス(C言語の関数ではないので、関数と呼ぶのは変ですが)を割り込みベクタに設定したあと、__initializeにジャンプします。

__initialize

// zephyr/arch/riscv/core/reset.S

/*
 * Remainder of asm-land initialization code before we can jump into
 * the C domain
 */
SECTION_FUNC(TEXT, __initialize)
        /*
         * This will boot master core, just halt other cores.
         * Note: need to be updated for complete SMP support
         */
        csrr a0, mhartid
        beqz a0, boot_master_core

loop_slave_core:
        wfi
        j loop_slave_core

boot_master_core:

#ifdef CONFIG_INIT_STACKS
        ...
#endif

        /*
         * Initially, setup stack pointer to
         * _interrupt_stack + CONFIG_ISR_STACK_SIZE
         */
        la sp, _interrupt_stack
        li t0, CONFIG_ISR_STACK_SIZE
        add sp, sp, t0

#ifdef CONFIG_WDOG_INIT
        call _WdogInit
#endif

        /*
         * Jump into C domain. _PrepC zeroes BSS, copies rw data into RAM,
         * and then enters kernel z_cstart
         */
        call _PrepC

最初にmhartidというCPUコアのIDを読み取ります。0番をマスターコアとして、0番以外のコアは割り込み待ち(wfi)の無限ループに入ります。マスターコアはスタックポインタの初期化を行って、_PrepC() 関数を呼び出します。

ここからやっとC言語の世界です。

編集者:すずき(2023/09/24 12:02)

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2020年2月10日

Zephyr OSで遊ぼう その9 - Zephyr 2.2.0に対応する

目次: Zephyr

Zephyrは開発中なので、ときおり内部構造が変わり、過去と互換性がなくなってしまうことがあります。ボードやSoCの定義も例外ではありません。

前回までの説明ではZephyr 2.1.0を使用していましたが、2.1.0から2.2.0の間で、ボードのdefconfigの書き方が変更されました。具体的に言うと、

  • ボード側: アーキテクチャCONFIG_RISCVを書かなくて良くなった
  • SoC側: CONFIG_RISCVをdepends on → selectに変える必要が生じた

下記のパッチにあるような変更をすると、2.2.0でもHogeボードとSpike SoCの対応が適用できます。

それぞれ1行ずつしか変更していませんので、すぐわかると思います。

Zephyrの不思議なコンフィグ

ZephyrはLinuxと同じKconfigを採用していますが、コンフィグの起点に対する考え方がだいぶ違います。Zephyrは最初にcmakeで「ボード名(-DBOARDオプション)」を指定します。すなわちコンフィグの起点はボードです。一方のLinuxはexport ARCH=x86のようにアーキテクチャを設定の起点にします。

Zephyr 2.1.0では、アーキテクチャ(CONFIG_RISCVなど)、SoC(CONFIG_SOC_RISCV_SIFIVE_FREEDOMなど)、ボードの依存関係は下記のようになっていました。

2.1.0の依存関係
アーキテクチャ(ボードのdefconfigがyにする)← アーキテクチャが依存の起点
↑depends on
SoC(ボードのdefconfigがyにする)
↑depends on
ボード(ボードのdefconfigがyにする)← Zephyrはなぜかボードがコンフィグの起点

依存関係とコンフィグの起点が矛盾しているためmenuconfigが異常な動きをします。おそらくninja menuconfigを弄れば矛盾に気づくと思いますが、Zephyrはなぜかボードが未対応のアーキテクチャやSoC(例えばqemu_riscv32でCONFIG_ARMを選択できる)を有効にできます。Zephyr 2.1.0だと2つ、おかしな設定ができます。

  • qemu_riscv32ボードで未対応のアーキテクチャ(例えばCONFIG_X86)を選択すると、SoCの選択肢がおかしくなる(X86だと言っているのに、RISC-V用のSoCが出てくる)
  • qemu_riscv32ボードで未対応のSoC(例えばCONFIG_SOC_LITEX_VEXRISCV)を選択すると、ボードの一覧が空になって選べなくなる(これは2.2.0でもできる)

実際にninja menuconfigで、qemu_riscv32が未対応のアーキテクチャを選ぶと下記のようになります。

Zephyr 2.1.0の変なコンフィグ
# qemu_riscv32のデフォルト

    Modules  --->
    Board Selection (QEMU RISCV32 target)  --->
    Board Options  ----
    SoC/CPU/Configuration Selection (SiFive Freedom SOC implementation)  --->
    Hardware Configuration  --->
    RISCV Options  --->
    Architecture (RISCV architecture)  --->
    General Architecture Options  --->
    General Kernel Options  --->
    ...


# ボードが対応していないアーキテクチャを選択すると、SoCが勝手に変わる、ボードは何も選べなくなる

    Modules  --->
    Board Selection  ----
    Board Options  ----
    SoC/CPU/Configuration Selection (LiteX VexRiscv system implementation)  --->    ★なぜかRISC-V用のSoCが出てくる
    Hardware Configuration  ----
    Architecture (x86 architecture)  --->    ★x86に変えた
    General Architecture Options  --->
    General Kernel Options  --->
    ...

そもそもx86が選択可能な時点でおかしいですが、x86を選択したのにx86じゃないSoCが選択肢に出てくるなど、かなりおかしな動きです。

中途半端に直ったZephyr 2.2.0

Zephyr 2.2.0では依存関係は下記のように、少しだけ整理されました。

2.2.0の依存関係
アーキテクチャ(SoCが強制的にyにする、menuconfigでは触れない)
↑select
SoC(ボードのdefconfigがyにする)
↑depends on
ボード(ボードのdefconfigがyにする)← ここが起点

アーキテクチャを変えることが出来なくなりました。前よりマシですが、やはり変なところは残っていて、未対応のSoCを選択するとボードの選択肢が消えてしまいます。

Zephyr 2.2.0の変なコンフィグ設定
# qemu_riscv32のデフォルト

    Modules  --->
    Board Selection (QEMU RISCV32 target)  --->
    Board Options  ----
    SoC/CPU/Configuration Selection (SiFive Freedom SOC implementation)  --->
    Hardware Configuration  --->
    RISCV Options  --->
    ...


# SoCを無理やり未対応のものに変えると、ボードが選べなくなる

    Modules  --->
    Board Selection  ----
    Board Options  ----
    SoC/CPU/Configuration Selection (LiteX VexRiscv system implementation)  --->
    Hardware Configuration  ----
    RISCV Options  --->
    ...

個人的にはZephyrのKconfigの使い方は変だな、と思います。依存関係があることはわかっているのだから、依存の根本の方から設定(要は、アーキテクチャ → SoC → ボード、の順)したら良いのに、Zephyrはなぜかボードの設定から固定していて、変な動きになっています。

Linuxはどうしているかというと、最初にexport ARCH=x86とします。すなわち、アーキテクチャを設定の起点にしています。自然です。特に変な動きもしません。

Zephyrの方がLinuxより後発ですが、ビルド周りは退化したように感じます。不思議。

編集者:すずき(2023/09/24 12:06)

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2020年2月9日

Zephyr OSで遊ぼう その8 - 独自のシリアルドライバの実装

目次: Zephyr

前回はシリアルドライバの枠組み、というか、何も実装されていないドライバを追加しました。今回はシリアルドライバを実装します。

Zephyrのドライバについてはドキュメント(Device Driver Model - Zephyr Project Documentation)があります。ドライバの定義や初期化を司るAPIがDriver APIの節に書いてあります。

今回作成するUARTドライバでは初期化は要りませんが、ドライバのAPIをいくつか実装したいのでDEVICE_AND_API_INIT() を使います。

UARTのドライバで実装できるAPIの一覧はドキュメント(UART - Zephyr Project Documentation)に書いてあります。APIはたくさんありますが、poll_in, poll_outがあれば動作するようなので、この2つを作ります。

コードは下記のようにしました。

QEMU Spikeモード用のシリアルドライバ実装

/*
 * SPDX-License-Identifier: Apache-2.0
 */

/**
 * @brief UART driver for the Spike Simulator
 */

#include <kernel.h>
#include <arch/cpu.h>
#include <drivers/uart.h>

volatile u64_t tohost;
volatile u64_t fromhost;

void uart_spike_poll_out(struct device *dev, unsigned char c)
{
        u64_t cmd;

        // QEMU spike mode
        u8_t dev_no = 1;
        u8_t cmd_no = 1;
        u64_t payload = c;

        cmd = ((u64_t)dev_no << 56) |
                ((u64_t)cmd_no << 48) |
                (payload & 0xffffffffffffULL);

        tohost = cmd;

        while (fromhost == 0)
                ;
        fromhost = 0;
}

static int uart_spike_poll_in(struct device *dev, unsigned char *c)
{
        return -1;
}

static int uart_spike_init(struct device *dev)
{
        return 0;
}

static const struct uart_driver_api uart_spike_driver_api = {
        .poll_in          = uart_spike_poll_in,
        .poll_out         = uart_spike_poll_out,
};

DEVICE_AND_API_INIT(uart_spike_0, DT_INST_0_SPIKE_UART_SPIKE_LABEL,
                    uart_spike_init, NULL, NULL,
                    PRE_KERNEL_1, CONFIG_KERNEL_INIT_PRIORITY_DEVICE,
                    (void *)&uart_spike_driver_api);

このままビルドするとDEVICE_AND_API_INIT() に渡しているラベルDT_INST_0_SPIKE_UART_SPIKE_LABELが未定義だと怒られます。これについては後ほど作り方を説明します。

ラベルが未定義のエラー
zephyr/drivers/serial/uart_spike.c:73:35: error: 'DT_INST_0_SPIKE_UART_SPIKE_LABEL' undeclared here (not in a function); did you mean 'DT_COMPAT_SPIKE_UART_SPIKE'?
 DEVICE_AND_API_INIT(uart_spike_0, DT_INST_0_SPIKE_UART_SPIKE_LABEL,
                                   ^~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
../include/device.h:106:11: note: in definition of macro 'DEVICE_AND_API_INIT'
   .name = drv_name, .init = (init_fn),     \
           ^~~~~~~~
[89/97] Linking C static library zephyr/libzephyr.a
ninja: build stopped: subcommand failed.

初期化はDEVICE_AND_API_INIT() で指定します。引数の意味は DEVICE_AND_API_INIT() のドキュメントを見たほうが良いでしょう。

引っかかりそうなところはdev_nameにダブルクォートを「付けない」こと、一番に初期化されるようにPRE_KERNEL_1にすることくらいでしょうか。

QEMU Spikeモードの文字出力

文字出力poll_outの実装は、グローバル変数に謎の数字を書くだけの不思議実装になっていますが、これはQEMU SpikeモードのHost, Guest間インタフェースの仕様に従っているためです。

ちなみにQEMU側はこんなコードになっています。

QEMU Spikeモードの文字出力

// https://github.com/qemu/qemu/blob/master/hw/riscv/riscv_htif.c

...

static void htif_handle_tohost_write(HTIFState *htifstate, uint64_t val_written)
{
    uint8_t device = val_written >> 56;
    uint8_t cmd = val_written >> 48;
    uint64_t payload = val_written & 0xFFFFFFFFFFFFULL;
    int resp = 0;

...

    } else if (likely(device == 0x1)) {
        /* HTIF Console */
        if (cmd == 0x0) {
            /* this should be a queue, but not yet implemented as such */
            htifstate->pending_read = val_written;
            htifstate->env->mtohost = 0; /* clear to indicate we read */
            return;
        } else if (cmd == 0x1) {
            qemu_chr_fe_write(&htifstate->chr, (uint8_t *)&payload, 1);
            resp = 0x100 | (uint8_t)payload;
        } else {
            qemu_log("HTIF device %d: unknown command\n", device);
        }
    } else {

...

    htifstate->env->mfromhost = (val_written >> 48 << 48) | (resp << 16 >> 16);
    htifstate->env->mtohost = 0; /* clear to indicate we read */
}

途中のif文を見るとわかるように、device=1, cmd=1にすると文字が出力できます。またQEMUが文字出力を終えたときにfromhostが0以外の値に書き換わります(なので、Zephyrのシリアルドライバ側ではfromhostをポーリングで監視する実装にしています)。

シリアルドライバのラベル定義とbindings

DT_INST_0_SPIKE_UART_SPIKE_LABELのようなラベルはユーザが定義するのではなく、zephyr/dts/bindings以下のファイルに存在するcompatibleと、デバイスツリーを突き合わせて自動生成するみたいです。命名規則については、以前Zephyr OSで遊ぼう その3(2020年2月4日の日記参照)で紹介したとおりです。

zephyr/dts/bindings/serial/spike,uart-spike.yaml

# SPDX-License-Identifier: Apache-2.0

description: UART for Spike Simulator

compatible: "spike,uart-spike"

include: uart-controller.yaml

デバイスツリーのcompatibleの突き合わせとラベルの自動生成は、zephyr/scripts/dts/gen_defines.pyとedtlib.py辺りでやっていることは間違いなさそうなのですが、詳細な仕組みはまだ追えていません。

若干もやっとしますがYAMLファイルを作成して、compatibleをデバイスツリーで使用したものと合わせると、目的のラベルDT_INST_0_SPIKE_UART_SPIKE_LABELが定義され、ビルドが通ります。

Hello world

ビルドが通ったら実行します。

QEMU SpikeモードでHello world
$ /usr/bin/qemu-system-riscv32 -nographic -machine spike -net none -chardev stdio,id=con,mux=on -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline -kernel zephyr/build/zephyr/zephyr.elf

qemu-system-riscv32: clint: time_hi write not implemented
qemu-system-riscv32: clint: time_lo write not implemented
qemu-system-riscv32: clint: time_hi write not implemented
*** Booting Zephyr OS build zephyr-v2.1.0-1699-gbb40304f2531  ***
Hello World! hoge

やっとHello worldが拝めました。長かった。 (2/19追記: qemu-system-riscv32: clint: time_hi write not implementedのエラーメッセージはmtimeとmtimecmpのアドレスが逆だったために発生していたエラーです。アドレス修正後は表示されません)

パッチ

今まで説明してきた変更をパッチとしてまとめておきます。

編集者:すずき(2023/09/24 12:05)

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2020年2月8日

Zephyr OSで遊ぼう その7 - 独自のシリアルドライバの枠組み

目次: Zephyr

Zephyrのビルドに成功し、gdbで追跡したところHello worldのmain関数まで到達していることもわかりました。ここまでくればあとは文字出力だけです。

まずHogeボードのdefconfigにCONFIG_UART_SPIKE=yを加えます。cmakeに「そんなコンフィグはない」と怒られるようになりますが、これから作るのでOKです。

シリアルドライバのKconfig, CMake

シリアルドライバのディレクトリはzephyr/drivers/serialにあります。ディレクトリの構造を見ると、CMakeLists.txt, Kconfig.*, ソースコードuart_*.cが並んでいます。この3つの組を追加もしくは変更すれば良さそうです。

zephyr/drivers/serial/Kconfig.spike

# SPDX-License-Identifier: Apache-2.0

menuconfig UART_SPIKE
        bool "Spike Simulator serial driver"
        depends on SOC_RISCV_SPIKE
        select SERIAL_HAS_DRIVER
        help
          This option enables the Spike Simulator serial driver.

名前は何でも良いですが、Kconfig.spikeという名前にしました。Kconfig.socとは違って、ファイルを足すだけではダメで、シリアルドライバのKconfigから読んでもらう必要があります。

zephyr/drivers/serial/Kconfigに追加する行

...

source "drivers/serial/Kconfig.litex"

source "drivers/serial/Kconfig.rtt"

source "drivers/serial/Kconfig.xlnx"

source "drivers/serial/Kconfig.spike"    # ★この行を足す★

endif # SERIAL

Kconfigを追加してcmakeをするとまだ怒られます。CMakeList.txtも変更する必要があるとのことです。

Kconfig追加後のcmake
-- Configuring done
CMake Error at ../../cmake/extensions.cmake:372 (add_library):
  No SOURCES given to target: drivers__serial
Call Stack (most recent call first):
  ../../cmake/extensions.cmake:349 (zephyr_library_named)
  ../../drivers/serial/CMakeLists.txt:3 (zephyr_library)


CMake Generate step failed.  Build files cannot be regenerated correctly.
FAILED: build.ninja

CMakeLists.txtは他の行に習って追加します。CMakeLists.txtを変更しただけだとuart_spike.cが無いと言われるので、touch uart_spike.cで空のファイルを作成します。

zephyr/drivers/serial/CMakeLists.txtに追加する行

...

zephyr_library_sources_if_kconfig(uart_liteuart.c)
zephyr_library_sources_ifdef(CONFIG_UART_RTT_DRIVER uart_rtt.c)
zephyr_library_sources_if_kconfig(uart_xlnx_ps.c)
zephyr_library_sources_if_kconfig(uart_spike.c)    # ★この行を足す★

...

他の行に習って追加するだけではつまらないので、CMakeのスクリプトも眺めます。今回使用したzephyr_library_sources_if_kconfig() とzephyr_library_sources_ifdef() との違いは、ソースコードのコメントにある説明がわかりやすいです。

ファイル名を大文字にして、CONFIG_ と連結させた名前(今回のケースだとCONFIG_UART_SPIKE)を生成して、コンフィグが有効ならソースコードをビルド対象に加えるという意味です。Kconfigのコンフィグはy, n, mの3値を取りますが、Zephyrのスクリプトでは、コンフィグが有効だとyという値が入り、無効だと未定義になるようです。

zephyr_library_sources_if_kconfigの実装

# zephyr/cmake/extensions.cmake

...

# zephyr_library_sources_if_kconfig(fft.c)
# is the same as
# zephyr_library_sources_ifdef(CONFIG_FFT fft.c)

...

function(zephyr_library_sources_if_kconfig item)
  get_filename_component(item_basename ${item} NAME_WE)
  string(TOUPPER CONFIG_${item_basename} UPPER_CASE_CONFIG)
  zephyr_library_sources_ifdef(${UPPER_CASE_CONFIG} ${item})
endfunction()

...

function(zephyr_library_sources_ifdef feature_toggle source)
  if(${${feature_toggle}})
    zephyr_library_sources(${source} ${ARGN})
  endif()
endfunction()


# zephyr/cmake/extensions.cmake

...

function(zephyr_library_sources source)
  target_sources(${ZEPHYR_CURRENT_LIBRARY} PRIVATE ${source} ${ARGN})
endfunction()

...

以上の変更でビルドが通り、シリアルドライバを実装する枠が完成しました。続きは次回。

編集者:すずき(2023/09/24 12:05)

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