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2021年8月3日

udevでPCIデバイスのパーミッションを設定する

目次: Linux

PCIデバイスを使った実験をする際にコンフィグ空間やメモリ空間を読み書きしたいときがあります。メモリ空間の読み書き程度ならば、わざわざPCIデバイスドライバを書かなくても /sys/bus/pci/devices/*/ にあるresourceNファイルにアクセスすれば良いです。

PCIデバイスはコンフィグ空間にBAR (Base Address Register) という32bitレジスタが6個あり、メモリ空間をPC側のアドレスのどこにマッピングするかを指定します。BARがそのままresourceNに対応しています。

最近は64bitアドレスでマッピングするデバイスも多いですが、その際は連続するBARを2つ使ってマッピング先のアドレスを指定します。実際に見たほうが早いと思うので、私の使っているマシンのグラフィックカードNVIDIA GeForce GT 1030を例にしましょう。

lspciでBARを確認
# lspci | grep VGA

08:00.0 VGA compatible controller: NVIDIA Corporation GP108 [GeForce GT 1030] (rev a1)

# lspci -s 08:00.0 -v

08:00.0 VGA compatible controller: NVIDIA Corporation GP108 [GeForce GT 1030] (rev a1) (prog-if 00 [VGA controller])
        Subsystem: Micro-Star International Co., Ltd. [MSI] GP108 [GeForce GT 1030]
        Flags: bus master, fast devsel, latency 0, IRQ 84, IOMMU group 14
        Memory at f6000000 (32-bit, non-prefetchable) [size=16M]    ★BAR0: resource0
        Memory at e0000000 (64-bit, prefetchable) [size=256M]       ★BAR1: resource1(64bitアドレス空間なのでBAR2も使われる)
        Memory at f0000000 (64-bit, prefetchable) [size=32M]        ★BAR3: resource3(64bitアドレス空間なのでBAR4も使われる)
        I/O ports at d000 [size=128]                                ★BAR5: resource5
        Expansion ROM at 000c0000 [virtual] [disabled] [size=128K]
        Capabilities: [60] Power Management version 3
        Capabilities: [68] MSI: Enable- Count=1/1 Maskable- 64bit+
        Capabilities: [78] Express Legacy Endpoint, MSI 00
        Capabilities: [100] Virtual Channel
        Capabilities: [128] Power Budgeting <?>
        Capabilities: [420] Advanced Error Reporting
        Capabilities: [600] Vendor Specific Information: ID=0001 Rev=1 Len=024 <?>
        Capabilities: [900] Secondary PCI Express
        Kernel driver in use: nvidia
        Kernel modules: nvidia

デバイスの位置(08:00.0)と、マッピングしているアドレスがBAR0, 1, 3, 5の4つ あることがわかります。/sys/bus/pci/devices経由でPCIデバイスのBAR1でマップされているメモリを読み出します。

GeForce GT 1030 BAR1の先頭をダンプ
# cd /sys/bus/pci/devices/0000\:08\:00.0/

# ma -k resource1 dd 0

00000000  ff000020 ff00082c  ff000020 ff00082c
00000010  ff3c0020 ff42082c  ff990020 ffa50027
00000020  ffa10020 ffa10027  ffa50020 ff990027
00000030  ff420020 ff3c0027  ff000020 ff000027
00000040  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
00000050  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
00000060  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
00000070  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
00000080  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
00000090  ff3c0020 ff420027  ffb90020 ffa50027
000000a0  ffa50020 ffb90027  ffa90020 ffa50027
000000b0  ff420020 ff3c0027  ff000020 ff000027
000000c0  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
000000d0  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
000000e0  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
000000f0  ff000020 ff000027  ff000020 ff000027
00000100

読み出しツールは何を使っても構いませんが、サイズがめっちゃでかい(256MB)ので「頭から読む系のツール(hexdumpやテキストエディタ)」は使わないほうが無難です。今回は拙作のmemaccess(GitHubへのリンク)を使いました。

ちなみにresourceNを読みだそうとすると怒られるときは、NVIDIAのドライバをロードしていないかチェックしてみてください。

NVIDIAのグラフィックドライバをロードしているとき、アンロードしたときの挙動
# ma -k resource0 dd 0

mmap: Invalid argument

# cat /proc/iomem

...
e0000000-fec2ffff : PCI Bus 0000:00
  e0000000-f1ffffff : PCI Bus 0000:08
    e0000000-efffffff : 0000:08:00.0
    f0000000-f1ffffff : 0000:08:00.0
  f6000000-f70fffff : PCI Bus 0000:08
    f6000000-f6ffffff : 0000:08:00.0
      f6000000-f6ffffff : nvidia    ★BAR0をnvidiaドライバが使用中なのでmmapできない
    f7080000-f7083fff : 0000:08:00.1
      f7080000-f7083fff : ICH HD audio
...

# rmmod nvidia_uvm nvidia_drm nvidia_modeset nvidia

# cat /proc/iomem

...
e0000000-fec2ffff : PCI Bus 0000:00
  e0000000-f1ffffff : PCI Bus 0000:08
    e0000000-efffffff : 0000:08:00.0
    f0000000-f1ffffff : 0000:08:00.0
  f6000000-f70fffff : PCI Bus 0000:08
    f6000000-f6ffffff : 0000:08:00.0    ★nvidiaドライバがアンロードされた
    f7080000-f7083fff : 0000:08:00.1
      f7080000-f7083fff : ICH HD audio
...

# ma -k resource0 dd 0

00000000  138000a1 00000000  00000000 bad00200
00000010  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000020  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000030  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000040  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000050  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000060  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000070  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000080  0000008f bad00200  bad00200 bad00200
00000090  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
000000a0  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
000000b0  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
000000c0  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
000000d0  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
000000e0  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
000000f0  bad00200 bad00200  bad00200 bad00200
00000100

ドライバが管理しているメモリを横から読み書きされたらたまったもんじゃないですから、この挙動は当然ですね。え?読み出しなら良いのでは?と思われるかもしれませんが、読み出しをトリガーに動作したり、読み出すと値が変化するレジスタなどは珍しくないので、勝手に読み出すのも実はダメなのです。

パーミッション面倒くさい

先ほど /sys/bus/pci/devices以下のファイルをls -lなどで見た方はお気づきかと思いますが、rootしか読めないようなパーミッションになっています。

resourceNのパーミッション設定
# cd /sys/bus/pci/devices/0000\:08\:00.0/

# ls -l resource*

-r--r--r-- 1 root root      4096  8月  2 22:08 resource
-rw------- 1 root root  16777216  8月  2 22:10 resource0
-rw------- 1 root root 268435456  8月  2 22:10 resource1
-rw------- 1 root root 268435456  8月  2 22:10 resource1_wc
-rw------- 1 root root  33554432  8月  2 22:10 resource3
-rw------- 1 root root  33554432  8月  2 22:10 resource3_wc
-rw------- 1 root root       128  8月  2 22:10 resource5

誰でもデバイスのメモリにアクセスできるのはマズいですから、セキュリティ上この設定は真っ当です。真っ当ですが、実験に使うときはいちいちsudoするのが面倒なのも事実です。手動でchmodやchownしてパーミッションを変えればsudo不要にできますが、いくつか欠点があります。

  • デバイスID 0000:08:00.0が常に同じとは限らない(カードの増設、撤去で変動する)
  • PCをリブートすると元に戻ってしまう

どこにいるかわからないデバイスを操作したいときは、udevの出番です。

udevでパーミッションを変える

前置きが長くなりましたが、やっと本題です。/etc/udev/rules.dに99-hogehoge.rulesのようなファイルを作ります。全てのPCIデバイスのパーミッションを全開にする必要はないので、ベンダーIDとデバイスIDでGeForce GT 1030だけ該当するようにフィルタリングしましょう。

ベンダーIDとデバイスIDの確認(lspciを使う方法)
# lspci -s 08:00.0

08:00.0 VGA compatible controller: NVIDIA Corporation GP108 [GeForce GT 1030] (rev a1)

# lspci -s 08:00.0 -n

08:00.0 0300: 10de:1d01 (rev a1)
              |    `--- Device ID
              `--- Vendor ID

他の条件をフィルタリングに使いたいときは、udevadm infoを使うと、vendorやdeviceも含んだ全ての属性を見ることができます。

ベンダーIDとデバイスIDの確認(udevadm infoを使う方法)
# udevadm info -a -p /sys/bus/pci/devices/0000:08:00.0 | less

...
  looking at device '/devices/pci0000:00/0000:00:03.1/0000:08:00.0':
    KERNEL=="0000:08:00.0"
    SUBSYSTEM=="pci"
    DRIVER==""
    ATTR{ari_enabled}=="0"
...
    ATTR{revision}=="0xa1"
    ATTR{subsystem_device}=="0x8c98"
    ATTR{subsystem_vendor}=="0x1462"
    ATTR{vendor}=="0x10de"    ★ベンダーID
...

IDが判明したらルールファイルを書きます。/sys/bus/pci/devices/* のディレクトリと配下のファイル全てにgroupとotherのRead/Writeパーミッションを付加します。%pは設定中のデバイスのパスが入る変数です。

udevのルール設定
SUBSYSTEM=="pci", ATTR{vendor}=="0x10de", ATTR{device}=="0x1d01", RUN+="/bin/chmod -R go+rw /sys%p"

注意点は「RUNはシェルじゃない」ことです。パスの補完、ワイルドカード、パイプ、リダイレクトなどは使えません。私は最初resource* と書いて「そんなファイルはない」と言われたり、/bin/chmodなのに /usr/bin/chmodと書いていて、何も実行されなくて悩みました(Ubuntuは /usr/bin/chmodだったりするので、さらにややこしいです)。

udevルールの反映
# udevadm trigger

# cd /sys/bus/pci/devices/0000\:08\:00.0/

# ls -l resource*

-r--rw-rw- 1 root root      4096  8月  2 23:10 resource
-rw-rw-rw- 1 root root  16777216  8月  2 23:10 resource0
-rw-rw-rw- 1 root root 268435456  8月  2 23:10 resource1
-rw-rw-rw- 1 root root 268435456  8月  2 23:10 resource1_wc
-rw-rw-rw- 1 root root  33554432  8月  2 23:10 resource3
-rw-rw-rw- 1 root root  33554432  8月  2 23:10 resource3_wc
-rw-rw-rw- 1 root root       128  8月  2 23:10 resource5

ルールファイルを書いたら設定を反映させると、resourceNファイルのパーミッションが変わっているはずです。変わっていない場合はおそらくルールの書き方が間違っているので、修正が必要です。

udevルールのデバッグ

むしろこちらが本題かもしれません。udevのRUNルールは「シェルじゃない」ので、普段シェル上で使っているコマンドをコピペしてもまず動かないです。間違っている場合は主に2パターンで、

  • フィルタリングのルールが間違っている
  • RUNの書き方が間違っている

前者に関してはRUNでログを出すとわかります。例えばRUN+="/usr/bin/logger AAAAAAAA" のようにすると、udevadm triggerを実行した後に /var/log/syslogにメッセージが出ます。

ログが出なければフィルタリングの条件を全部削って試してください。それでもログが出なければおそらくloggerのパスが間違っています。which loggerで出てくるパスとRUNに書いたパスが合っているか確認してください。特に /binと /usr/binは間違えやすいです。

後者に関してはRUNに書いたコマンドが失敗するとsyslogにエラーが記録されるはずですので、間違ってワイルドカードやパイプなどを書いていないかチェックしてみると良いです。

syslogに記録されるエラーの例
Aug  1 22:56:51 blackbird systemd-udevd[2775846]: 0000:08:00.0: Process '/bin/chmod -R go+rw /sys/devices/pci0000:00/0000:00:03.1/0000:08:00.0*' failed with exit code 1.

ログを見てもすぐにわからないような場合は、地道に「コマンド名だけにして実行されるか?」「引数を1つずつ足していって動くか?」を確認するのが一番良いです。

編集者:すずき(2023/09/24 13:37)

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2021年8月2日

シンタックス・ハイライト

コードのキーワードハイライトに使っているhighlight.js(公式サイトへのリンク)を11.2.0にしました。導入したのは7年も前(2014年9月11日の日記参照)ですが、バージョンアップはスムーズにできました。

APIに変更があってinitHighlightingOnLoad() がdeprecatedになりました。代わりにhighlightAll() を呼べばOKです。ファイル名も微妙に変わっていました。スクリプトはhighlight.pack.jsからhighlight.min.jsに、CSSはvs.cssからvs.min.cssになっていました(Visual StudioスタイルのCSSを使う場合の設定、この他にもスタイルはたくさんあります)。

編集者:すずき(2021/08/05 13:02)

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